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リジェネラティブ(環境再生型)農業の技術:土壌/環境再生・炭素固定

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アスタミューゼ株式会社

アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、リジェネラティブ(環境再生型)農業に関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。

目次

はじめに

リジェネラティブ農業とは

「リジェネティブ農業」という言葉をご存知でしょうか? リジェネラティブ農業とは既存の「サスティナブル(持続可能)な農業」の先の概念です。持続可能な農業が「土壌や環境の悪化といった環境負荷を減らし、今ある資源を守り、現在の方法を維持しつつおこなう農業」という概念であるのにたいし、リジェネラティブ農業は、さらに一歩進んで「土壌・環境・生態系といった自然を回復/再生しつつおこなう積極的な農業」となります。日本ではまだまだ「リジェネラティブ農業」は浸透しておらず、普及の道筋や技術の王道は用意されていません。一部の先鋭的な企業のみが率先して投資している状況です。

サステナ農業からリジェネラティブ農業へ

2000年にミレニアム開発目標が国連サミットで採択され、世界規模で持続可能な開発が推進されています。2015年にSDGsが採択され、日本の農業においても、この動きに先んじて、1999年に「持続的農業の支援に関する法律(持続農業法)」が制定されています。2022年には環境と調和のとれた食料システムの確立に向けて「持続農業法」は「みどりの食料システム法」に置き換えられています。「持続可能な農業」は認知され、各企業の事業ポートフォリオにもくみこまれるようになってきています。

世界では、気候危機や生物多様性の損失はすでにかなり深刻な状態であるという理解が進み、「回復させる」レベルの行動が必要だと意識されるようになったことで、ネイチャーポジティブ(自然再興)という観点から、「持続可能な農業」から「リジェネラティブ農業」に移行いつつあります。

日本では環境に対する意識が早くから高かったこともあり、リジェネラティブ農業に近い、有機農業や自然農法、環境保全型農業という呼称でこれらが推進されてきています

自然農法はリジェネラティブ農業にふくまれると定義できますが、有機農業や環境保全型農業では「再生」までは組みこまれていないため、リジェネラティブ農業に包含されないとする考え方もあります。今後、世界の流れをくみ、「再生」の概念を加えていくことになる可能性も高いと考えられます。

リジェネラティブ農業の定義と技術

リジェネラティブ農業の定義

リジェネラティブ農業はどんなことをおこなうのでしょうか。今年1月に、カリフォルニア州食糧農業委員会(CDFA)にて、リジェネラティブ農業の定義が発表されました。

(a)土壌の健全性向上(土壌有機物/生物多様性の構築)

(b)リジェネラティブ農業による炭素固定

(c)病害虫管理促進(殺虫剤への依存低減)

(d)アニマルケア(農業における動物利用)

(e)健康的な地域コミュニティの構築

(f)精神的/文化的伝統保護(先住民主導のスチュワードシップの実践支援)

(g)他の目標成果への悪影響を最小限に抑える

(h)農家や牧場主の経済的活力や生活にプラスの影響を与え続ける

上記8つの定義は、「(f)先住民の伝統保護」や「(h)経済的活力」といった、カリフォルニア州に特化した定義となっています。このように、リジェネラティブ農業は国際機関による明確な指針はなく、各地域によって個別に定義している状態です。

アグロエコロジーについて

2025年3月末時点で、リジェネラティブ農業には国際的指針は作られていません。アメリカでは、USDA Organicの上位互換的位置づけとして「Regenerative Organic Certified」という認証制度が用いられています。

この認証では(1)土壌の健康(Soil Health)、(2)動物福祉(Animal Welfare)、(3)社会的公平性(Social Fairness)を柱としています

リジェネラティブ農業とならんで近年使われている「アグロエコロジー」については、国連食糧農業機関(FAO)による「アグロエコロジーの10原則」という国際的な指針があります。

アグロエコロジーとは自然のしくみを活かしながら、持続可能で公平な食料生産を目指す考え方であり、生態系と社会の統合を焦点とされ、アグロエコロジーを実践するためのひとつの手段としてリジェネラティブ農業が位置づけられています。アグロエコロジー技術は、農薬や化学肥料に頼らず、自然の仕組みを活かし、エコシステム全体を考えることが特徴ですので、リジェネラティブ農業の技術がそのまま適用されることになります。

リジェネラティブ農業に関わる技術

リジェネラティブ農業の技術にはどんなものがあるのでしょうか。CDFAやFAOの定義をもとに、使われる技術をまとめると以下の5つになります。

  1. 不耕起栽培

  2. 作物による土壌被覆/保護

  3. コンパニオンプランティング(共生的な作物栽培)

    ※防害虫における殺虫剤使用低減

  4. バイオ炭・堆肥など有機資源の活用

  5. 輪作や放牧と組み合わせた農牧循環

リジェネラティブ農業の概念が「再生」をふくみますので、各項目には土壌や環境を現状から回復/向上させる技術がふくまれます。

地政学リスクをさけるために自給率を上げる動きや、持続可能な農業からリジェネラティブ農業へ移行している世界的な流れもあります。この流れに遅れをとらないためにも、リジェネラティブ農業の技術的動向をみていくことは必要です。本レポートではアスタミューゼ独自のデータベースを活用し、リジェネラティブ農業に関わる技術の開発動向を見ていきます。

リジェネラティブ農業に関する研究予算の動向

科研費などの競争的研究資金はグラントと呼ばれます。研究者があらたなアプローチや研究をおこなうための資金であり、かつ、資金源である国や企業がこれから必要とされる技術を選定している場でもあります。アスタミューゼでは、グラントに採用された案件の研究概要にふくまれるキーワードの出現数を年次推移で算出することで、近年伸びている技術要素を特定する「未来推定」という分析をおこない、萌芽的な技術分野の予測をしています。キーワードの変遷をたどることで、すでにブームが去っている技術やこれから脚光をあびる要素技術を可視化し、黎明・萌芽・成長・実装といった技術ステータスの予測が可能です。

リジェネラティブ農業に関する競争的研究資金におけるキーワード分析

図1は2012年から2023年の12年間において、リジェネラティブ農業に関わるグラントに採用された研究の概要にふくまれた特徴的なキーワード出現数の年次推移です。

図1:リジェネラティブ農業に関わるグラントの研究概要にふくまれる特徴的なキーワードの年次推移(2012~2023年)

成長率(growth)は全期間の文献内における出現回数に対する、後半6年間(2018-2023年)の出現回数の割合を表します。数値が1に近いほど直近の出現が多くなります。

競争的資金を受けたリジェネラティブ農業の研究にも、世界的な時流がみられます。まず、近年とくに話題になっている環境問題や課題にかんする切り口です。「xeric-adapted」や「climate-smart-agriculture」といった気候に関連したプロジェクトや、「pfas-in」や「tsetse-infected」のような環境影響物質の除去、小規模畜産における防害虫に関するプロジェクト等が2018年以降に多く見られます。「exometabolomic」のようなバイオマス関連プロジェクトも増加傾向にあります。

一方で「arbuscular」や「mycorrhizal」といった土壌細菌をかかげたプロジェクトは減少傾向にあります。こういった時流による増減がみえるなか、「biochar-mediated」や「peat」、「biochar」、「ghg」と炭素固定に関しては、この12年間で大きな増減はなく、資金配賦が継続しておこなわれています。さらには「agro-food-systems」や「agroecosystems」といったあらたな産業構造をしめす造語も増えてきており、これからの市場形成・規模拡大が予想されます。

このように、リジェネラティブ農業に関わる技術のうち「4.バイオ炭・堆肥など有機資源の活用」や「3.コンパニオンプランティング(共生的な作物栽培)」に資金がつく傾向があります。

リジェネラティブ農業に関するグラントの国別分析

図2は、リジェネラティブ農業に関連するグラント採択件数における2012年から2023年までの上位5か国の動向です。ただし中国はグラントデータを非公開としており、実態を反映していない可能性が高いため除外しています。また、公開直後のグラント情報は、データベースに格納されていないものもあり、直近の集計値については過小評価されている可能性があります。

図2:リジェネラティブ農業に関連する研究開発競争資金の国別件数推移(2012~2023年)

図3は、グラント配布額の国別年次推移です。配賦金額はプロジェクト期間で均等割りし、各年度に配分し集計しています。たとえば3年計画で3万米ドルのプロジェクトは、各年に1万米ドルの計上になります。

図3:リジェネラティブ農業に関連するグラントの国別付与額推移(2012~2023年)

件数では、英国と日本、米国がTOP3でしたが、日本の件数は半分程度に減少しています。研究配賦額では、件数では4位であったEUがとびぬけて多くなっており、他国と大きく差をつけています。EUの配賦額は1件あたりの額が大きく、リジェネラティブ農業に必要な5つの技術を包括したプロジェクトがすすめられていると推察できます。これの背景には、2019年末に発表された「欧州グリーンディール」があります。

この規則案にもとづき「2050年までに排出ゼロを達成する世界初の大陸になる」ことを目標に、様々なEU圏内でさまざまなプロジェクトが立ち上げられています。政権主導ということもあり、2020年以降毎年50億ドルを超える資金が投じられている計算となります。起案は2023年以降も継続されており、2027年以降も継続されるプロジェクトが30件弱と息の長い計画となっています。

以下に配賦額の高いグラントの事例を紹介します。

  • Options for Net Zero Plus and Climate Change

    • 研究機関/企業:UK CENTRE FOR ECOLOGY & HYDROLOGY他

    • グラント名/国:UKRI/GB

    • 研究期間:2022~2026年

    • 配賦額:約944万ポンド

    • 概要:森林の拡大や泥炭地の再湿潤化により、二酸化炭素の吸収や温室効果ガスの排出削減を通じて気候変動緩和への寄与を研究する。土壌・水・空気・生態系など多分野の科学者が連携し、地球の陸域と水系の関係解明のために、ダウンスケーリング手法を用いて、地球規模のモデルを地域レベルに適用し、実用的な知見を得ることを目指す。

  • Tools and methods for extended plant PHENotyping and EnviroTyping services of European Research Infrastructures (PHENET)

    • 研究機関/企業:INSTITUT NATIONAL DE RECHERCHE POUR L’AGRICULTURE, L’ALIMENTATION ET L’ENVIRONNEMENT (フランス)他

    • グラント名/国:CORDIS/EU

    • 研究期間:2023~2027年

    • 配賦額:約999万ユーロ

    • 概要:ヨーロッパの農業生態系をアグロエコロジーへ移行させるため、植物表現型解析や生態系観測などの研究基盤を連携し、気候変動に対応可能な作物・管理手法をAIや衛星データを活用して開発する。8つの実証ケースや農場データを通じて実装され、教育やアウトリーチも強化。気候変動に強い作物や革新的農業の実現を目指す。

  • BrightSpace: Designing a Roadmap for Effective and Sustainable Strategies for Assessing and Addressing the Challenges of EU Agriculture to Navigate within a Safe and Just Operating Space

    • 研究機関/企業:STICHTING WAGENINGEN RESEARCH (オランダ)他

    • グラント名/国:CORDIS/EU

    • 研究期間:2022~2027年

    • 配賦額:948万ユーロ

    • 概要:欧州グリーンディールの目標達成にむけて、農業の持続可能性と公平性を両立させる「安全で公正な事業空間(SJOS)」の実現を目指す。政策・技術・制度の選択肢を分析・評価するツールを開発し、国や地域ごとの課題に対応し、中長期的な未来予測に基づく効果的なEU政策の策定を後押しする。

(以下、リジェネラティブ農業に関連するスタートアップ企業の分析と全体のまとめについては、アスタミューゼ株式会社のコーポレートサイトにてご覧いただけます)

著者:アスタミューゼ株式会社 髙橋 基延 修士(理学)

さらなる分析は……

アスタミューゼでは「メタマテリアル」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。

本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。

それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。

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コーポレートサイト:https://www.astamuse.co.jp/

お問合せフォーム:https://www.astamuse.co.jp/contact/

出典:PR TIMES

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企業プレスリリース詳細へ (2025年4月17日 11時39分)

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