株式会社アルバック
株式会社アルバックおよびアルバック・クライオ株式会社は、純国産量子コンピューター向け希釈冷凍機*1を開発し、2025年4月4日付で国内の量子研究機関*2に設置を完了しました。
日本では、主要コンポーネントをすべて国産化した量子コンピューターの実現が長らく課題とされてきました。今回、アルバックの希釈冷凍機がその中核装置として採用されたことにより、日本初となる純国産量子コンピューターが誕生しました。
この実現は、日本が量子コンピューター分野において独自の競争力を築き、今後の国際的な技術競争において存在感を発揮していくための重要な礎となるものです。国産化により、量産・拡張に向けた柔軟な技術対応や、国内での部品供給・保守体制が整備され、ユーザーにとっても導入リスクの低減と持続的な運用が可能となります。なかでも、量子ビットの高精度な動作を支える極低温環境を安定的に実現したアルバックの希釈冷凍機は、本システムの中核を担う技術として、社会実装と継続的運用の両面において重要な役割を果たしています。
本量子コンピューターは、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)において、8月14日から20日に開催されるイベント「エンタングル・モーメント[量子・海・宇宙]×芸術」*3にて、来場者がクラウドを通じて実際に操作を体験できるかたちで一般公開されます。
「純国産」量子コンピューターへの挑戦
今回実現した純国産量子コンピューターは、冷凍機、制御装置、量子ビットチップといった主要な構成要素をすべて日本国内の技術で設計・製造したシステムです。なかでもアルバックは、量子ビットの高精度な動作に不可欠な10 mK級の極低温環境を、長時間かつ安定して維持できる希釈冷凍機の開発を担いました。
本開発においては、冷却効率の最大化と振動抑制の両立、極低温下での構造部品の熱収縮への対応など、多岐にわたる技術課題に直面しました。これらの課題を解決するため、アルバック・クライオは独自の冷却流路設計や高精度な部品加工技術、温度・応力分布に関するシミュレーションなどを駆使。幾度にもわたるプロトタイプ試作と性能評価を重ねることで、極低温かつ安定した冷却を実現しました。
また、将来的な大規模量子プロセッサへの拡張を見据え、システムの柔軟性を高めるモジュール設計を採用しており、研究開発から社会実装まで幅広いステージに対応可能な構成となっています。
さらに、希釈冷凍機に加え、パルスチューブ冷凍機や真空部品といった冷却・真空分野の主要コンポーネントもすべて自社で一貫開発・製造しており、安定供給と長期サポートの両立を実現しています。こうした取り組みにより、アルバックは研究現場の高度な要求に応えるとともに、今後の量子システムの進化にも柔軟に対応できる体制を築いています。
今回の希釈冷凍機の開発を担当したアルバック・クライオ株式会社 技術部の斎藤政通は、次のように述べています。
「日本の技術で量子コンピューターを冷却するという挑戦は、低温エンジニアとして大きな誇りです。量子技術という最先端の領域に、私たちの希釈冷凍機で貢献できたことに深い喜びを感じています。これを一つの出発点として、今後さらに高性能・高信頼の冷却技術を追求してまいります。」
今後の展望
アルバックは、今回のような国内の産学官連携にとどまらず、世界の量子技術分野をリードする企業からも、パートナーとして高い期待を寄せられています。今後も、日本発の真空・極低温冷却技術を活かし、量子技術の発展と未来社会の課題解決に貢献してまいります。

*1 本研究開発の一部は、科学技術振興機構(JST) ムーンショット型研究開発事業「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現(PD:北川 勝浩)」、研究開発プロジェクト「超伝導量子回路の集積化技術の開発(PM:山本 剛)」、研究開発課題「量子計算に特化した冷凍システムの開発 (課題推進者:斎藤 政通)(No. JPMJMS2067)」の支援を受けて行われました。
*2 本希釈冷凍機は、大阪大学量子情報・量子生命研究センターに設置されています。
*3 大阪・関西万博「エンタングル・モーメント ―[量子・海・宇宙]× 芸術」
株式会社アルバックについて
株式会社アルバックは1952年の創立以来、コアテクノロジーである真空技術を基盤として、製造装置やコンポーネント、分析機器、材料、サービスを提供している真空総合メーカーです。真空技術が利用される半導体・電子部品、ディスプレイ、自動車、医薬品等、幅広い業界のお客様とともに最先端のイノベーションの創出に挑戦し、新たな価値の創造に取り組んでいます。https://www.ulvac.co.jp/index.html
アルバック・クライオ株式会社について
アルバック・クライオ株式会社は、1981年に日本真空技術(現・株式会社アルバック)の真空技術と、米国ヘリックステクノロジー社(現・Edwards Vacuum LLC)の冷凍機技術を融合し事業を開始。極低温生成および制御技術を応用したクライオポンプ、極低温機器の開発・製造・販売を行っています。日本国内において、クライオポンプの販売高は40%を占めています。https://www.ulvac-cryo.com/