慶應義塾
-免疫療法抵抗性を示すがん治療応用への期待-
発表のポイント
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人体にある重要な細胞表面タンパク質(ETB受容体)と、投げ縄様の独特な構造を持つラッソペプチド「RES-701」がどのように結合するか、クライオ電子顕微鏡で明らかにしました。
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このペプチドは、ETB受容体内の特定の隙間にしっかりと入り込み、受容体が通常行う細胞内への信号伝達を阻害することがわかりました。
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これにより、ラッソペプチドの高い選択性と安定性が、ETB受容体を標的とした新規創薬戦略に応用できる可能性が示唆されます。
慶應義塾大学医学部坂口光洋記念講座(シグナル探求学)の志甫谷渉准教授(研究当時:東京大学大学院理学系研究科 助教)、東京大学大学院理学系研究科の濡木理教授およびLassogen Incらによる研究グループは、細胞表面に存在するGタンパク質共役受容体(GPCR)の一つであるETB受容体に対するラッソペプチドRES-701の結合構造をクライオ電子顕微鏡(cryo-EM)による単粒子解析によって決定しました。GPCRの1つであるETB受容体は血管の働きを調整することや、がんの血管新生や免疫反応に関わることが知られており、難治性がんの治療標的として注目され、治療薬開発が待ち望まれています。しかし、これまでの開発では、十分な機能調節活性、選択性が発揮できる低分子化合物を得ることはできませんでした。ラッソペプチドの一つであるRES-701はGPCRの1つであるETB受容体に対して既存の薬剤より高い選択性をもち、逆作動薬としての有望性が示される一方で、ETB受容体へ作用する仕組みの解明が今後の創薬応用への課題でした。
今回の研究では、カルシニューリン融合法を応用することで、従来困難だったRES-701結合型のETB受容体の構造決定に成功し、ペプチドが受容体内部の特定の疎水性ポケットに結合する様子を可視化しました。この結合により、Gタンパク質と受容体との相互作用に必要な構造変化が阻害され、逆作動薬活性が実現されることが分かりました。
この成果は、ETB受容体をターゲットとするラッソペプチドを基にした医薬品開発の道を切り拓くものであり、特に免疫療法抵抗性を示すがん治療など、さまざまな疾患に対する応用が期待されます。
▼全文は本学のプレスリリースをご参照ください。
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2025/4/24/250424-1.pdf