株式会社リクルートホールディングス
アートワーカー(企画者)向けプログラム「CRAWL」選出企画 中屋敷智生×光島貴之〈みるものたち〉

「CRAWL」は、株式会社リクルートホールディングスが運営するアートセンターBUGが行っているアートワーカー(企画者)向けのためプログラムです。
企画書をコミュニケーションツールとして、メンターとの壁打ちや参加者同士のネットワーク構築などアートワーカーの機会と場をつなぎ、未来へつづくつながりを形成していくことを目的としています。
2025年6月4日より「CRAWL」にて選出された高内洋子による「中屋敷智生×光島貴之〈みるものたち〉」が開催されます。
本展覧会では、全盲の光島貴之、色弱の中屋敷智生という独自の仕方で世界を捉える二人の美術作家を取り上げ、〈みる〉ということについてあらためて意識を向けてみる機会を作ります。
光島は、木板に連なって打ち込まれた釘の傾きや高低差によって街の姿を表現します。それは光島が白杖を使って歩いたり、日々生活する中で得たイメージを手ざわりという別の感覚に置き換えたものです。一方の中屋敷は、「遠くにあるものは小さく見える」「過去と未来を同時に見ることはできない」といった知覚の常識を解きほぐしながら、彼独自のトーンでモチーフに新しい存在の仕方を与えます。
本展覧会では作品に直接手で触れることができます。さまざまな感覚をひらいて鑑賞する体験は〈みる〉こととの新しい出会いをもたらし、私たちの共通(だと思っていた)認識の更新を促すでしょう。鑑賞者の中でより豊かな世界像が築かれていく未来に、本展覧会が寄与できればと願っています。
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展覧会のみどころ
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1.〈みるものたち〉とは誰か
〈みる〉という言葉には実に多くの意味が含まれており、私たちは日常のさまざまなシーンでこの言葉を用いています。視界に入れるときの「見る」、世話をするときの「看る」、こころみるときの「試る」など、複数の漢字を当てはめることもできます。このように、〈みる〉という言葉は「状況を把握する、経験する」といった厚みのある表現として多用されており、英語のseeのように他の言語でも同様の傾向がみられます。
本展覧会では、独自の仕方で世界をみる二人のアーティストに焦点を当てます。色弱の中屋敷智生は多くの人とは異なる色の世界で絵を描き、全盲の光島貴之は光のない世界でレリーフを制作します。彼らは音や手ざわり、言葉による記憶などの隣り合う感覚を総合しながら作品を生み出します。しかし〈みる〉という言葉の厚みが示唆するように、色弱や全盲ではない人たちも、単に視界に入れるということ以上の広がりをもって世界を「みている」のだと言えそうです。
このように、本展覧会では〈みる〉ということの厚みや広がりに注目しながら、中屋敷と光島という二人の〈みるもの〉、そして鑑賞者という第三の〈みるもの〉を加えた〈みるものたち〉のあり方を考えます。視覚に特性のある彼らの作品にふれることで、〈みる〉ということにあらためて出会い直す機会となれば幸いです。
2.さわれる展示
本展覧会には、直接手で触れて鑑賞することのできる作品があります。
光島によるレリーフ状の新作では、木の板に連なって打ち込まれた釘により彼の住む街の姿が表現されます。路面のわずかな傾斜を敏感に捉える彼の感覚は釘の高低差に反映され、風を切って走り去る自転車は渦巻き状の釘のラインで表現されます。鑑賞者は、このように彼が視覚以外の観点からみる街のかたちを、手で触れることで追体験できます。
一方、中屋敷の絵画作品にはマスキングテープが画材として用いられるという特徴があります。キャンバスの中では異物とも言えるマスキングテープの存在は、絵画の物質としての存在感をよりあらわにするでしょう。この物質性は、色を明度でみる彼が独自のバランスで描き出す形象と非形象の間で、鑑賞者の焦点を絶えず揺さぶるという現象をもたらすはずです。
このように、本展覧会では目でだけではなく手で触れて、その音にも耳をすませながら、さまざまな感覚を使って作品を〈みる〉ことができます。
3.二人のアーティストが同じテーマで制作する新作を展示
二人の表現の特徴を際立たせるために、本展覧会では中屋敷と光島が同じテーマで制作する新作を展示します。
この二つの作品は会場中央に立てる壁に展示されますが、背中合わせに配置するため、両者の作品を同時に見比べることはできません。鑑賞者にとってはもどかしい体験となるはずですが、二つの作品を傍観者の視点から眺め比べるのではなく一つ一つの作品世界の当事者として向き合い、ありのままに受け止めるよう鑑賞者を促します。
まわりに視線を移すと、ギャラリー壁面には二人の作品が混在するかたちで配置され、両者の作品世界を隔たりなく体感できる構成となっています。光島作品の余韻を残したまま中屋敷作品をみ、また光島作品をみる。そうした流れに身をゆだねる中で、視覚・触覚・聴覚などの区別は曖昧になり、「視覚に特性がある」というアーティストの属性さえも次第に意味を失い始めるでしょう。鑑賞者はそのとき、作品情報ではなく作品そのものと向き合い、〈みる〉体験に没入しているはずです。
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関連イベント(すべての関連イベントに※手話通訳・文字通訳あり)
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トークイベント「世界を捉えることと描くことのあいだ」
▶︎2025.6.14(土)18:00-20:00
登壇者:光島貴之(本展出品アーティスト)、中屋敷智生(本展出品アーティスト)、
杉浦幸子(武蔵野美術大学・教授)、高内洋子(司会)
対話型鑑賞
見えない人・見えにくい人・見える人が一緒に展示作品を言葉で鑑賞します。
▶︎2025.6.15(日)14:00-16:00
ファシリテーター:白鳥建二(全盲の美術鑑賞者/写真家)、光島貴之
▶︎2025.6.28(土)14:00-16:00
ファシリテーター:光島貴之
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企画者プロフィール
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高内洋子 / Yoko TAKAUCHI
兵庫県生まれ、京都府在住。関⻄学院大学大学院文学研究科博士課程後期課程単位取得退学。博士(哲学)。重症心身障害児施設、グループホーム、ホームヘルパーなど障害のある人と関わる業務に携わりながら、2012年より全盲の美術家・光島貴之の専属アシスタントとして作品制作のサポートをおこなう。2020年より、アートギャラリー兼制作アトリエ「アトリエみつしま」マネージャーを兼任。施設運営管理および展覧会やワークショップなどの企画を担う。携わる主な企画として、展覧会「それはまなざしか」(2021年、アトリエみつしまSawa-Tadori)、「まなざしの傍ら」(2023年、同会場)、「今村遼佑×光島貴之感覚をめぐるリサーチ・プロジェクト〈感覚の点P〉展」(2025年、東京都渋谷公園通りギャラリー)。ワークショップ「視覚に障害のある人・ミーツ・アート」(2021年〜)、「ぎゅぎゅっと対話鑑賞」(2023年〜)ほか。趣味は知恵の輪。
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出展アーティストプロフィール
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中屋敷智生/Tomonari NAKAYASHIKI
1977 年大阪府生まれ、京都市在住。2000 年京都精華大学美術学部造形学科洋画分野卒業。2007 年とよた美術展’07(豊田市美術館、愛知)審査委員賞。国内を中心に、韓国、台湾、イギリス、フランスなどのグループ展やアートフェアに参加多数。近年では絵具と同様のメディウムとしてマスキングテープを使用し、独特のコラージュ的なレイヤーとテクスチャーのある絵画作品を手がける。

光島貴之/Takayuki MITSUSHIMA
1954 年京都府生まれ。10 歳頃に失明。大谷大学文学部哲学科を卒業後、鍼灸院開業。鍼灸を生業としながら、1992 年より粘土造形を、1995 年より製図用ラインテープとカッティングシートを用いた「さわる絵画」の制作を始める。’98 アートパラリンピック長野、大賞・銀賞。近年は、連なって打ち込まれた釘の傾きや高低差により街の姿を表現したレリーフの組作品などを発表している。
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作品画像
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光島貴之《ハンゾウモン線・清澄白河から美術館へ》2019
釘、まち針、鋲、ステップル、マップピン、トタン板、木製パネル
サイズ可変
東京都現代美術館蔵
Photo: Masaru Yanagiba
[参考作品]

中屋敷智生《There is》2024
Oil, acrylic, solid marker, tape on canvas
2610×1940 mm
Photo: Tomas SVAB

中屋敷智生《5本のバナナ》2021
Acrylic, tape on canvas
910×650mm[参考作品]
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開催概要
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<タイトル> アートワーカー(企画者)向けプログラム「CRAWL」選出企画
中屋敷智生×光島貴之〈みるものたち〉
<会期>2025年6月4日(水)〜 6月29日(日)
<開館時間> 11:00〜19:00 火曜休館 入場無料
<主催> BUG
BUG
〒100-6601 東京都千代田区丸の内1-9-2 グラントウキョウサウスタワー1F
Gran Tokyo SOUTH TOWER 1F, 1-9-2, Marunouchi, Chiyoda-ku, Tokyo
交通アクセス
JR東京駅八重洲南口から徒歩3分
東京メトロ京橋駅8番出口から徒歩5分
東京メトロ銀座一丁目駅1番出口から徒歩7分
※BUGには専用駐車場はありません。ご来館には公共交通機関をご利用ください。
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【本件に関するお問い合わせ先】
https://recruit-holdings.co.jp/support/form/
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