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腸内細菌間のコミュニケーションの一部が明らかに

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NIBN

腸内環境を整える腸活のヒントとなる可能性

目次

概要

腸内細菌は、私たちの健康にとって非常に重要な存在です。腸内細菌が構成する腸内細菌叢のバランスが乱れると、便秘や下痢、肌荒れ、慢性的な身体の不調など、さまざまな悪影響を及ぼすことが近年明らかになってきました。しかし、どのような分子メカニズムによって、腸内細菌叢のバランスが維持されているのかについては未だ十分に解明されていません。

大阪公立大学大学院獣医学研究科の細見 晃司准教授、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所医薬基盤研究所の國澤 純副所長らの共同研究グループは、株式会社はくばくの協力の下、いわゆる「悪玉菌」と呼ばれるフソバクテリウム バリウム(Fusobacterium varium)※1と、いわゆる「善玉菌」と呼ばれるフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)※2に着目し、これらの細菌間の相互作用について、次世代シーケンサーや質量分析装置を使用し解析しました。

その結果、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィは、フソバクテリウム バリウムの増殖を抑制していることが明らかになりました。これには、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィの存在によって「pH(酸性度)」が下がり、「β-ヒドロキシ酪酸※3」が増加することが関係しています。さらに、フソバクテリウム バリウムが存在することで、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィの増殖が促進されることも明らかとなりました。

本研究成果は、2025年7月28日に国際学術誌「Microbiome」にオンライン掲載されました。

フソバクテリウム(白矢印)フィーカリバクテリウム(黄矢印)が相互作用する様子を捉えた電子顕微鏡像

細見 晃司准教授

私たちの周りには、目には見えないですが、たくさんの微生物が存在し健康や病気と深く関係しています。私たちの研究室では、こうした微生物に関する理解を深めることで、人や動物の健康を守り、病気の克服につなげたいと考えています。今回の研究成果も、その一歩になると信じています。

細見 晃司准教授

研究の背景

私たちの腸の中には多くの細菌が存在しており、「腸内細菌」と呼ばれています。腸内細菌は、食べ物の消化や吸収を助けたり、免疫機能を調整したりする、私たちの健康にとって大切な存在です。近年では、腸内細菌の種類や構成のバランスが崩れる「腸内細菌叢の乱れ(腸内ディスバイオシス)」が、便秘や下痢などの消化器系の不調やさまざまな病気と関係していることが分かってきました。しかし、腸の中で細菌同士がどのように関係し合って腸内細菌叢のバランスを維持しているのか、そのメカニズムは未だ十分に明らかになっていません。

研究の内容

本研究では、フソバクテリウム バリウム(Fusobacterium varium)という、病気の原因になりやすい細菌と、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)という健康を支える細菌の相互作用について、日本人236人を対象とした観察研究をもとに解析を行いました。

はじめに、日本人236人を対象に次世代シーケンサーを用いた16Sアンプリコン解析※4を実施。その結果、約半分の116人はフソバクテリウム属が検出されませんでした。そこで、フソバクテリウム属が検出されなかった人の腸内細菌叢の特徴を調べたところ、検出された人に比べてフィーカリバクテリウム属の割合が多いことが判明しました。さらに、236人のうち112人についてショットガンメタゲノム解析※5を行い、腸内細菌を種レベルで詳細に調べたところ、フィーカリバクテリウム属の中で、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィの割合が多く、このプラウスニッツィがフソバクテリウム バリウムを含む複数のフソバクテリウム属の細菌種と逆相関の関係にあることが明らかになりました。

次に、腸内細菌叢の解析結果をもとに、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィとフソバクテリウム バリウムに着目し、これらの細菌を培養して、細菌間の相互作用について調べました。その結果、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィは、フソバクテリウム バリウムの増殖を抑えることが分かりました。質量分析装置を用いて培養液中の成分を詳細に調べたところ、この増殖抑制作用には、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィの存在によって「pH(酸性度)」が下がり、「β-ヒドロキシ酪酸」という物質が増加することが関係していることが明らかになりました。

一方で、フソバクテリウム バリウムがいることで、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィの増殖が促進されるという、予想していなかった結果も得られました。これは、電子顕微鏡を用いた観察から、細菌同士が直接触れあうことで起きている可能性が高いと考えています。このように、腸の中では細菌同士が複雑なやりとりをしており、腸内細菌叢のバランスが維持されていることが示唆されました。

期待される効果・今後の展開

本研究により、「腸内の細菌同士がどう支え合ったり競い合ったりしているか」という目には見えない細菌間のコミュニケーションの一部が明らかとなりました。今後、こうした細菌同士の関係性を明らかにすることで、腸の不調や病気を予防または改善する新しい方法の確立、健康を支える細菌の力を高める食品やサプリメントの開発、個人の腸内環境に合わせた「腸活」の提案など、腸内環境を整える新しい医療や健康法のヒントが生まれると期待されます。

今後も、細菌のコミュニティを詳しく調べることで、私たちの健康づくりに役立てていくことを目指します。

資金情報

本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(課題番号:22K15004、22KK0257)、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)(事業名:次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業(腸内マイクロバイオーム制御による次世代創薬技術の開発)、研究開発課題名:リバーストランスレーショナル創薬に向けた包括的マイクロバイオーム制御基盤技術開発―マイクロバイオーム創薬エコシステム構築に向けて―)、研究開発とSociety5.0との橋渡しプログラム(BRIDGE)、G-7奨学財団、株式会社はくばくからの支援を受けて実施しました。

用語解説

  • ※1 フソバクテリウム バリウム(Fusobacterium varium):腸内や口腔内に存在する細菌の一つで、大腸の炎症やがんとの関連が指摘されている。

  • ※2 フィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii):腸内に存在する細菌の一つで、健康に有益な酪酸を産生するなど、腸の健康に関わっていると考えられる。

  • ※3  β-ヒドロキシ酪酸(β-hydroxybutyric acid):ケトン体の一つで、人や動物では肝臓で生成され、エネルギー源などとして利用される。一部の腸内細菌によっても産生されて、pHを下げたり、他の菌の増殖に影響を与えたりする作用がある。

  • ※4  16Sアンプリコン解析:次世代シーケンサーを用いた腸内細菌の分析手法の一つ。細菌に特有の16SリボソームRNA遺伝子の配列情報を取得し、細菌の種類(門から属レベルまでの判定が可能だが、種の判定は困難。)と割合を調べることができる。

  • ※5  ショットガンメタゲノム解析:次世代シーケンサーを用いた腸内細菌の分析手法の一つ。細菌の全ての遺伝子の配列情報を取得し、細菌の種類(種レベルまで判定できる)と割合を調べることができる。

掲載誌情報

  • 【発表雑誌】Microbiome

  • 【論文名】Metabolite-mediated interactions and direct contact between Fusobacterium varium and Faecalibacterium prausnitzii

  • 【著者】Koji Hosomi, Satoko Maruyama, Tsubasa Matsuoka, Mari Furuta, Yoko Tojima, Keita Uchiyama, Makiko Morita, Hitoshi Kawashima, Toshiki Kobayashi, Jun Kunisawa

  • 【掲載URL】https://doi.org/10.1186/s40168-025-02168-w

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出典:PR TIMES

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