特定非営利活動法人 世界遺産アカデミー
有名な「ノイシュヴァンシュタイン城」(ドイツ連邦共和国)もついに世界遺産登録

2025年7月6日から16日の期間、フランス・パリのユネスコ本部で第47回世界遺産委員会が開催されました。もともとはブルガリアのソフィアで開催される予定でしたが、ブルガリアでの政権交代などもあり準備ができないということで、ユネスコ本部での開催に変更されました。議長を務めたのは、当初の予定のままブルガリアのニコライ・ネノフ博士です。
文部科学省後援「世界遺産検定」を主催するNPO法人世界遺産アカデミーの宮澤光主任研究員が、現地で会議の全日程に参加しました。今年の世界遺産委員会の注目ポイントを解説します。
▼新規登録の遺産と和訳の一覧は以下ページをご参照ください。
https://www.sekaken.jp/pdf/202507_new.pdf
※以下、宮澤研究員による解説
26件の新規登録で、1,223件あった世界遺産は1,248件に。数字が合わない理由
今回の世界遺産委員会では、26件の世界遺産が新たに世界遺産リストに記載され、世界遺産の総数は1,248件になりました。また、シエラレオネとギニア・ビサウが新たに遺産保有国となり、世界遺産を保有する国の数は170カ国になりました。
文化遺産:21件
自然遺産:4件
複合遺産:1件
合計:1,248件
合計の世界遺産数は、昨年の世界遺産委員会が終わった時点では1,223件だったので、26件追加されると1,249件になるはずなのですが、今回登録されたパナマの遺産『パナマの植民地時代の地峡横断ルート』が、既に登録されていた同じくパナマの『パナマ・ビエホ考古遺跡とパナマの歴史地区』を統合して登録されたため、1,248件となりました。
既に登録されている遺産の登録範囲の拡大ではなく、新規登録として推薦された遺産が世界遺産委員会の審議の中で既にある遺産を含むことで、かつてあった遺産名が世界遺産リストから消えるのは初めてのことです。単独で登録されていたフランスの「シャンボール城」が、2000年に『ロワール渓谷:シュリー・シュル・ロワールからシャロンヌまで』に含まれたのと似ていますが、その過程が異なっています。
登録遺産の多様性が特徴的だった今年の委員会。危機遺産数は減少

今回登録された26件の遺産は、有名なノイシュヴァンシュタイン城を含むドイツの『バイエルン王ルートヴィヒ2世の宮殿群:ノイシュヴァンシュタイン城、リンダーホーフ城、シャッヘン城、ヘレンキームゼー城』や、ミノタウロスの迷宮の神話の舞台としても知られるギリシャの『ミノア文明の宮殿群』、その国の主流の文化とは言えないイタリアの『先史時代のサルディーニャ島の葬送の伝統:ドムス・デ・ヤナス』やフランスの『カルナックとモルビアン沿岸の巨石群』、そして道の遺産や先史時代の遺産など、非常に多様性を持った遺産たちでした。
また2023年に世界遺産の新しい概念として採用された「記憶の場」としては、今回もカンボジアの『カンボジアの記憶の場:抑圧の中心から平和と反省の場へ』が登録されました。これはクメール・ルージュの歴史を伝える遺産です。「記憶の場」に関する遺産は、今後も登録されていくと考えられます。また文化的景観の価値が認められた遺産も5件ありました。
危機遺産リストに新たに追加された遺産が0件だった一方、エジプトの『聖都アブー・メナー』、リビアの『ガダーミスの旧市街』、マダガスカルの『アツィナナナの熱帯雨林』の3件が危機遺産リストから脱したため、危機遺産数は53件になりました。危機遺産リスト入りした遺産よりも脱した遺産が多かったのは、2021年以来のことです。
「多国間主義」と「気候変動対策」の重要性を再確認する場に
今回の世界遺産委員会で強調されたのが「多国間主義」と「気候変動対策」です。ユネスコのオードレ・アズレ事務局長による開会の挨拶でも、ユネスコの世界遺産活動は多国間主義を実現するもので、気候変動や紛争などの現在直面する課題を解決する上で重要であること、また自然遺産の3分の1、農業関連遺産の約20%が既に気候変動の深刻な影響を受けており、それを解決する上でも多国間主義が欠かせないことが述べられました。
世界遺産委員会終了後も、アメリカのユネスコ脱退や、登録されたばかりの韓国の『盤亀川沿いの岩面彫刻群』の洪水の被害、カムチャツカ半島での火山噴火と地震など、多国間主義や世界遺産の保護・保全が危機に直面するニュースが続いています。アズレ事務局長が言うように、世界遺産は「文化が主要な役割を果たす、現実的かつ決意ある多国間主義を代表する活動」であることを私たち全員が再確認する必要があると思いました。
来年、2026年の第48回世界遺産委員会は、韓国の釜山で、7月19日から29日まで開催されます。日本からは「飛鳥・藤原の宮都」が審議される予定ですので、楽しみですね。


NPO法人世界遺産アカデミー 宮澤光 主任研究員
NPO法人 世界遺産アカデミー主任研究員。
北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。早稲田大学、跡見学園女子大学非常勤講師。世界遺産アカデミーの研究員として世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、これまで全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。
▼世界遺産検定HPの「研究員ブログ」ではより詳しく各日の審議の様子をレポートしています。
https://www.sekaken.jp/whinfo/blog/

NPO法人 世界遺産アカデミー
ユネスコの理念を広め、多文化理解を進めることで、世界遺産の保全活動の輪を広げ、社会に貢献することを目的に設立。2006年より、世界遺産条約の理念や世界遺産の価値を学ぶ「世界遺産検定」を開催。受検料の一部はユネスコの信託基金「世界遺産基金」に寄付され、世界遺産の保護・保全に役立てている。また、世界遺産の専門家による講演会の開催、自治体・教育機関への講師派遣、各国大使館での文化体験イベントの開催、世界遺産の保全活動を体験するクリーンツーリズムイベントの開催、世界遺産の建築見学ツアーなど、様々な取り組みを行っている。
【世界遺産アカデミー公式HP】https://wha.or.jp/

世界遺産検定
ユネスコの理念を知り世界遺産活動の輪を広げることを目的に、世界遺産アカデミーが主催する文部科学省後援の検定。2006年の第1回検定以来、40万⼈以上が受検、24万⼈以上が認定されている。年4回、全国の主要都市で開催しており、4級、3級、2級、1級、最上級のマイスターのほか、2024年7月第56回検定からは準1級も新設されて全6級構成となった。20代を中⼼に⼦どもからシニアまで幅広い受検者を集め、メディアからの注⽬も⾼い。⼤学等⼊試優遇や学校での授業にも組み込まれている他、世界遺産に関連する施設・催事などでの認定者向けの優待特典もある。受検者からは「世界遺産を勉強したら、旅がもっと楽しくなった」との声も多く、趣味・教養を深める検定としても⼈気を博している。
【世界遺産検定公式HP】https://www.sekaken.jp/