株式会社 日立製作所
全天候・24時間対応で多変数データ取得を実現し、持続可能な社会インフラへの貢献をめざす

日立は、人工衛星を活用した地球観測分野において、災害監視や社会インフラの維持管理、環境モニタリングなど多様な社会課題の解決に貢献する「構造化電波*1」技術の原理検証に成功しました。本技術は、従来の電波観測では困難だった、物体の形状や動き、材質など複数の特徴(多変数データ)を同時に取得できる独自の電波制御および解析技術です。今回、音波と電波が波として共通の性質を持つことを利用し、音波を用いた実験を通じて、開発した渦状の波面(OAM:軌道角運動量*2)を持つ構造化電波の生成・制御、検出、解析技術の有効性を確認しました。これにより、天候や昼夜の影響を受けずに、通常の距離情報に加えて3次元像や速度などの複数の情報取得が見込まれ、現場での迅速な意思決定や異常兆候の早期発見に役立つことが期待されます。今後は、パートナー企業や大学・研究機関と連携し、地球観測や環境モニタリング、災害監視など多様な分野での社会実装を推進し、持続可能で安全・安心な社会の実現に貢献していきます。

*1 構造化電波: ここでは、偏波状態や位相、周波数といった自由度を制御して作り上げた電波のことを指す。今回は渦状の波面の重ね合わせを使用。
*2 OAM(軌道角運動量): Orbital Angular Momentumの略。OAMを有する電波は、進行方向に垂直な面内において、方位角方向の位相が、右向き、左向きに回転する渦状の波面を持つことを特徴とする。
■背景および課題
近年、都市インフラの老朽化や気候変動による自然災害の激甚化などにより、社会インフラの維持管理や災害リスク低減が世界的な課題となっています。人工衛星を使った広域観測は、効率的に広い地域を調べる方法として注目されています。しかし、従来の光学観測*3は天候や昼夜の影響を受けやすいという課題があり、また、電波観測*4は24時間・全天候で利用できるものの、自然な見た目の情報が得らないことや対象物の形状が歪んで観測されることがあるため、結果を直感的に解釈することが難しいという課題がありました。こうした状況から、社会インフラの健全度評価や災害監視、環境モニタリングの高度化に向けて、天候や時間に左右されず、より多変数かつ高精度な情報を分かりやすく可視化できる新たな観測技術が求められていました。
*3 光学観測: 可視光や赤外線などの光を利用して地表や物体の様子を観測する方法。
*4 電波観測: 電波を利用して地表や物体の状態を観測する方法。
■課題を解決するために開発した技術・ソリューション
そこで日立は、天候や昼夜を問わず多様な情報を高精度に取得できる「構造化電波」技術を開発しました。電波の波の形(波面の構造)、偏波状態、位相、周波数といった、さまざまな性質を組み合わせて、観測目的に応じた最適な電波を生成・解析できるのが特長です。これにより、物体の形状や動きなどの多変数データを同時に取得し、迅速な判断や異常の早期発見に貢献します。技術の特長は以下の通りです。
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多変数・高精度観測を実現する構造化電波の制御技術
渦状の波面(OAM)を重ね合わせて作られる「構造化電波」の状態を、ユーザインタフェースで視覚的に確認しながら自由に設計・制御できる技術を開発しました。これにより、観測対象に最も感度の高い電波を選択することで、地球観測の高精度化に貢献します。
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物体識別・速度推定を可能にする構造化電波のスペクトル検出技術
「構造化電波」の周波数分析によってOAMスペクトル*5やドップラー成分*6を高感度に検出できる技術を開発しました。これにより、観測対象の形状や材質、動きなどを同時に把握し、インフラの異常兆候や災害リスクの早期発見に貢献します。
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直感的なデータ解釈を支援する構造化電波の散乱特性分析技術
「構造化電波」が物体に当たって反射・散乱した際の波の形や性質の変化を直感的に把握できる可視化・解析手法を開発しました。これにより、観測データの解釈が容易になり、現場での迅速な意思決定やインフラ健全度評価の高度化、環境モニタリングの効率化に寄与します。
*5 OAMスペクトル: OAM(軌道角運動量)を持つ電波が、どのような種類や強さの渦状成分を含んでいるかを示す分布。
*6 ドップラー成分: 観測対象が動いている場合に、電波の周波数が変化する現象(ドップラー効果)で得られる周波数成分。
■確認した効果
音波と電波が波として共通の性質を持つことを利用して、今回、8素子円形スピーカーアレイを用いた構造化音波の生成・受信実験を行いました。その結果、波面構造の制御、OAMスペクトル検出の有効性を実証し、多変数データを取得できることを確認しました。これまでの電波観測で課題となっていた情報量の不足や直感的なデータ解釈の難しさを解消し、全天候・24時間対応という特長を生かした高精度・高機能な社会インフラモニタリングの実現に貢献します。さらに、災害監視やインフラ管理の現場では、より迅速かつ的確な意思決定が可能となります。
■今後の展望
今後は、持続可能な社会インフラの実現や、気候変動への適応力強化に向けて、パートナー企業や研究機関との連携を通じて実際の電波を用いた実証などを進め、社会実装を推進します。本技術の普及により、インフラ管理の効率化や災害リスクの低減、環境負荷の最小化など、持続可能で安全・安心な社会の実現に貢献をめざします。なお、本成果の一部は2025年8月10日~13日に米国ユタ州ソルトレイクシティで開催される「39th Annual Small Satellite Conference」で発表予定です。
■関連情報
■照会先
株式会社日立製作所 研究開発グループ
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