2025年7月9日。『Makihara Noriyuki Concert 2025 Buppu Label 15th Anniversary “Showcase

the Live!”』のツアー38本目、東京ガーデンシアター公演が開催されました。

槇原敬之さんのこの日の公演は、WOWOWの松井菜穂プロデューサー／ディレクターが率いるチームによって撮影され、9月28日にWOWOWプラスで放送されます。僕はその撮影に密着するためにやって来ました。

WOWOWが今年導入した最新の音声中継車を見学したり、山田尚彦さん（629テクニカルプロデューサー／ビデオエンジニア）が率いる技術チームが別室に大量の機材を持ち込んで設営したベース（ディレクターと撮影監督がモニターを見ながらカメラマンたちにインカムで指示を送る場所）の威容に見惚れていたら、14:00前にカメラマンのみなさんが続々と控え室に入ってきました。その数16名、ちなみにスタッフ総勢79名。撮影だけでこれだけの人が関わっているのです。

今回、松井監督が立てたテーマは「槇原さんのお披露目会」。「Showcase!」というタイトルに合わせて槇原さんとバンドをショーケースの中のショートケーキに見立て、十数台のカメラで主に正面から撮影する、というアイデアです。

14:30から打ち合わせ。撮影監督の勝田正志さんが、カメラマンたちに向かってテーマを発表し、セットリストを掲げながら、演出上のポイント（照明の切り替わり、ステージセットの動き、お客さんの立ち／座り、バンドメンバーの位置など）を説明していきます。

「（カメラマンには）知らなかった曲でも聴いて好きになりながら撮ってもらいたい」「切り取り方は任せる」とオーダーしていたのはすごいと思いました。「信頼があるんですね」と言ったら「それができるカメラマンにしか声かけてないですから」と胸を張る勝田さん。誇らしげな顔がまぶしかったです。

16人のカメラマンは、別の現場では撮影監督を務める人も多いオールスターキャスト。その全員をあだ名で呼び、「槇原さんに俺のShowcase!を見せてあげたい」と笑わせながら軽妙に話を進めていく勝田さんも、それを淡々と咀嚼していくカメラマンたちも、さすが百戦錬磨のプロ揃い。職人好きとしてはたまらない空間です。

15:30からリハーサル。撮影チームにとっては本番での動き方を確認する大事な時間です（一部のカメラマンはギリギリまでポジションを探っていました）。開演予定時刻の18:30を5分ほど押してコンサートが幕を開けると、松井さんと勝田さんがインカムでカメラマンに手際よく声をかけていきます。

書き込みでいっぱいの歌詞カードを見ながら「8小節後に下手ギターソロ」「下手からの片明かりがくる」「ありがとう、でお辞儀するかも？」などカメラマンの動き方の参考になる情報を伝えたり、「あれを撮って」と指示したり。強く印象に残ったのは、二人が「いいね」「最高」と誉めたり、ときに冗談を言いながら、カメラマン各位をリラックスさせようと努めていたことです。初めて見る光景に興奮していたら、2時間半が一瞬で過ぎ去りました。

目にも止まらない速さでベースの撤収作業を始めた技術チームに「おつかれさまでしたー」と声をかけて控え室に戻ると、仕事を終えたカメラマンたちが続々と引き揚げてきた……かと思ったら、超速攻で荷物をまとめて帰っていきました。いつもそんな感じだそうですが、その隙間をくぐってなんとか聞けたお話を、カメラマンお二人分だけ紹介します。

江口健さん「他のカメラのことも考えつつ、自分の撮りたいものとのバランスも気にしながらなので、“自由に撮っていい”と言われてかえって難しかったけど、いい映像は撮れたと思います。もともとの空気感がいいので、そのまま切り取れていたらいいなと」

寺戸秀行さん「ポジション取りにしてもレンズ選びにしても、はまれば一曲そのワンカットでもつぐらい強い画になるんですけど、そこを探すのが大変でした。リハからずっと探してましたし、なんなら何年も探してます（笑）。なので本番中に監督と撮影監督に“いいね”って言われると安心しますね」

生まれて初めて目にしたコンサート撮影の現場。情報量が多すぎてぐったり疲れ、帰り道で派手に転んでしまいました。次のプロセスはいよいよ松井監督の孤独な編集作業です。さて、どんな「作品」が出来上がるのか──「素材」をひと通り見せてもらったからこそ、完成がいっそう楽しみになる僕なのでした。

文＝高岡洋詞

出典：PR TIMES

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