三幸エステート株式会社
「オフィス拡張移転DI」の動向
三幸エステート株式会社(本社:東京都中央区、取締役社長:福島正二郎)と株式会社ニッセイ基礎研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:手島恒明)は、賃貸オフィスの成約事例の各種データを活用し、オフィス市場における企業の移転動向などに関する共同研究を行っています。
両社はこれまで、成約賃料指数である「オフィスレント・インデックス※」 を開発するなど、オフィス市場分析に共同で取り組んできました。本研究では、賃貸オフィスの成約事例に関する各種データを活用し、オフィス市場における企業の移転動向などに関する分析を行います。
本稿では、共同研究の一環として算出した「オフィス拡張移転DI」を中心に、2025年上期の東京オフィス市場の動向を発表いたします。
三幸エステート(2025)「オフィスレント・インデックス2025年第2四半期」(2025年7月31日)
要旨
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オフィス拡張移転DIは概ね高水準で推移し、堅調なオフィス需要が継続している
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伝統的産業では拡張意欲が底堅く推移
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ビルクラス間での差異は小さく、総じてオフィス需要が強い
次項よりニッセイ基礎研究所 金融研究部 佐久間 誠 執筆
「オフィス拡張移転DI」の動向
オフィス拡張移転DIは、0%から100%の間で変動し、基準となる50%を上回ると企業の拡張意欲が強いことを表し、50%を下回ると縮小意欲が強いことを示す 。※1
東京都心部のオフィス拡張移転DIは、2025年第1四半期に64%と一時的に低下したが、第2四半期には69%へ反発し、需要の底堅さがうかがえる。以下では、オフィス成約面積の動向を振り返った後、オフィス拡張移転DIを業種別およびビルクラス別に分析し、企業のオフィス需要の動向を確認する。
※1 算出方法については、末尾の【参考資料】「オフィス拡張移転DIについて」を参照

1.企業のオフィス移転動向は堅調に推移
三幸エステートの公表データによると、2025年上期の東京都心5区におけるオフィス成約面積は47.0万坪で、前年同期比+3.4%増加した(図表 1)※2 。内訳は、未竣工ビルの成約面積は6.2万坪で同-2.8%の減少となった一方、竣工済ビルは40.8万坪で同+2.5%増加した。企業業績の好調を背景に、事業拡大や人材確保を目的としたオフィス移転需要は引き続き堅調に推移している。
※2 三幸エステート「オフィスマーケット調査月報」を参照

2.オフィス需要の底堅い推移と市場のタイト化
① オフィス拡張移転DIは高水準を維持
東京都心部のオフィス拡張移転DIは、2025年第1四半期に64%まで低下したが、第2四半期には69%へ反発した。(図表 2)※3 。2023年以降、オフィス拡張移転DIは概ね70%前後で推移している。2023年は新規供給が多かったため、空室率はほぼ横ばいだったが、2024年以降は低下基調となり、2024年12月の3.93%から2025年6月には2.76%へ低下し、需給の引き締まりが一段と進んだ。
※3 東京都心部は、東京都心5区主要オフィス街および周辺区オフィス集積地域(「五反田・大崎」「北品川・東品川」「湯島・本郷・後楽」「目黒区」)。詳細は、三幸エステート「オフィスレントデータ2025」を参照

オフィス移転件数に占める拡張・同規模・縮小の比率(2024年下期→2025年上期)は、「拡張58%→52%」、「同規模28%→29%」、「縮小14%→19%」となった(図表 3)。企業業績が過去最高水準にあるなか、縮小移転を選択する企業が増加した点は注目される。

② 業種別では伝統的産業で拡張意欲が底堅く推移
2025年上期の主要業種別のオフィス拡張移転DIは、不動産業・物品賃貸業が77%、学術研究・専門/技術サービス業が71%、製造業が69%、卸売業・小売業が68%、その他サービス業が52%、情報通信業が48%となった(図表 4)※4 。不動産業・物品賃貸業や製造業といった伝統的産業では拡張意欲が底堅く推移した一方、情報通信業とその他サービス業では落ち込みが目立った。
※4 業種別のオフィス拡張移転DIは、十分なデータ数を確保するため、東京都心部ではなく東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)を対象とした

特に、オフィス拡張移転DIが50%を下回った情報通信業に着目すると、オフィス移転件数の比率(2024年下期→2025年上期)は、拡張移転が「61%→35%」、同規模移転が「17%→26%」、縮小移転が「22%→35%」となった(図表 5)。情報通信業では、2023年5月の新型コロナウイルス感染症の5類移行後も、縮小移転の比率が他業種より高水準で推移してきたが、直近ではその傾向がさらに強まった。背景として、面積は縮小しているものの、立地・ビルグレードの改善を目的とした移転事例が複数あったことが挙げられる。採用活動での優位性確保や従業員満足度の向上が期待できる質の高いオフィスビルへの移転事例が含まれ、業績不振等による縮小移転といったマイナスの動きは低水準に止まっている点には注意が必要となる。

③ ビルクラス別での差異は小さく総じて高水準
ビルクラス別のオフィス拡張移転DIを見ると、2025年上期はAクラスビルが72%(前期79%)、Bクラスビルが72%(同84%)、Cクラスビルが76%(同71%)となった(図表 6)※5 。A・Bクラスはいずれも前期から低下したが高水準を維持しており、総じて旺盛なオフィス需要が続いている。Aクラスビルのオフィス拡張移転DIは、コロナ禍で急落したものの、2023年下期以降は70%前後で安定的に推移してきた。これに伴い、東京都心部Aクラスビルの空室率は2023年第4四半期の6.9%から2025年第2四半期には2.3%へ低下し、需給の引き締まりが強まっている。
※5 各ビルクラスの分類は、三幸エステートの定義に基づき、同基準を満たすビルを抽出した上で、ビルクラス別のオフィス拡張移転DIを算出している。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している(詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2025 」を参照)

3.おわりに
本稿では、オフィス拡張移転DIをもとに2025年上期のオフィス移転動向を分析した。
その中で、
(1)オフィス拡張移転DIは概ね高水準で推移し、堅調なオフィス需要が継続している
(2)伝統的産業では拡張意欲が底堅く推移
(3)ビルクラス間での差異は小さく、総じてオフィス需要が強い
ことを確認した。
以上のように、2025年上期のオフィス市場は、全体として底堅い推移を維持している。オフィス需給のタイト化が進み都心部の主要エリアでは募集床の品薄感が強まっており、インフレ環境下で賃料上昇が加速するか否かが、今後の注目点となる。
【参考資料】 オフィス拡張移転DIについて
オフィス拡張移転DI※6は、オフィス移転後の賃貸面積が移転前と比較して(1)拡張、(2)同規模、(3)縮小、した件数を集計し、次式により計算している。
オフィス拡張移転DI=1.0×拡張移転件数構成比+0.5×同規模移転件数構成比+0.0×縮小移転件数構成比
オフィス拡張移転DIは0%から100%の間で変動し、基準となる50%を上回ると企業の拡張意欲が強いことを表し、50%を下回ると縮小意欲が強いことを表す。例えば、図表 7のように、オフィス移転が合計500件あり、そのうち拡張移転が150件、同規模移転が300件、縮小移転が50件の場合、オフィス拡張移転DIは60%となり、企業の拡張意欲が強いことを表す。
※6 DIはDiffusion Index(ディフュージョン・インデックス)の略、変化の方向性を示す指標のことである。DIの代表例としては、経済分野では日本銀行の 全国企業短期経済観測調査(日銀短観)や内閣府の景気動向指数、また不動産分野では土地総合研究所が公表する不動産業業況等調査(不動産業業況指数)がある

