坂井市役所
スタートアップが地元企業とがっちりタッグ

繊維、ドローンの2分野 自社の強みをアピール
春江に拠点「サカイ・ウィーブ」地元も熱視線
全国の優れたスタートアップと地元企業をマッチングさせることで新たな“稼ぐ力”を育てる福井県坂井市の「新産業共創事業」が8月26日、同市内で本格的に始動した。この日は、坂井市での同事業のベース(拠点)となる新事務所「SAKAI WEAVE(サカイ・ウィーブ)」のお披露目をかねて、市のパートナー企業である「ReGACY Innovation Group(レガシー・イノベーション・グループ=本社・東京、以下レガシー社)」が全国から誘致した企業3社と2大学を明らかにし、それぞれの担当者が坂井市で取り組む研究や事業についてプレゼンテーションした。

5つのスタートアップは、繊維とドローンの2分野で優れた技術や知見を持つ企業&研究機関で、今後、どの地元企業とマッチングするのか「相手先」を探している段階ではあるが、レガシー社は「今後、スタートアップの皆さんがこの坂井のエリアで伸び伸びと活動していける、フレンドリーな環境づくり、醸成づくりが、われわれの大きな活動となる」(桶谷建央取締役兼執行役員)とスタートアップの定着に全力を挙げる考え。一方、坂井市は「今回は、繊維とドローンというテーマで誘致してきたが、優れた技術を持つ地元企業と面白い取り組みが出来るかもしれない、こちらも連携による想定外の“化学反応”を期待している」(企画政策課)と今後の流れに期待を込めた。
プレゼンテーションを行ったスタートアップは繊維関係の「北海道大学」(北海道)、「Amateras Speace株式会社」(東京都)「Ensoa株式会社」(福岡県)とドローン関係の「金沢工業大学」(石川県)と「サイトセンシング株式会社」(東京都)の3企業と2大学。レガシー社が初年度(令和7年度)の誘致企業として42の候補を挙げ、そのうち11社と面談を実施、その後外部審査員による厳正な審査を行い、採択した。
同事業の活動拠点となる「SAKAI WEAVE」は、ハピライン春江駅前にあるJA福井県旧春江東支店を改修して完成。1階フロア約169平方メートルにはコワーキングスペースや会議スペースを設け、主にスタートアップの活動ベースとなる。本格オープンは10月1日だが、コワーキングスペースはこの日5社のプレゼンテーション会場となり、池田禎孝市長や市関係者や地元企業など約50人が参集した。

5つのスタートアップは各代表が登壇、またはオンラインによるプレゼンテーションを展開。植物由来の「微生物セルロース」によるマイクロ繊維の製品化、繊維をベースとした宇宙服の研究開発、ドローンによる長距離飛行のサービス展開などそれぞれの独自技術力や自社の強みをアピール、地元企業との連携によって、今後の研究開発、実証実験を繰り返すことで「各事業の実用化を目指したい」と事業化に意気込みを見せた。
このうち、Ensoa社の事業は、間伐材を原料とした「木糸」や天然染料を軸として、木糸と成分解性ポリエステルによる低環境負荷の生地の開発などに挑むもので、地元・春江町に本社を置く経編ニット製造業の「アサヒマカム株式会社」とのマッチングが決まっている。この日会場でプレゼンを聞いた同社の鈴木博之社長(57)は「(Ensoa社と組むことは)わが社としても新しい挑戦。木糸という新しい素材を使うことで、用途展開が広がる可能性もある」とスタートアップとの連携に高い関心を寄せていた。
坂井市やレガシー社によると、今後5年間で、毎年5~6社のスタートアップを同市に呼び、地元企業&事業者とマッチングを予定している。さらに新産業の担い手となりうるスタートアップと、SAKAI WEAVE拠点を活用しながら市内の企業とのオープンイノベーションプロジェクトなどを実施し、スタートアップによる市内の雇用創出や研究拠点等の設置を通じた産業活性化を目指す。来年3月には、初年度の成果を発表する報告会も開く予定。
「毎年、全社定着が前提だが、最低でも5分の2を」
ReGACY Innovation Group 桶谷取締役に聴く
―今回の5社は42の候補の中から決めたと聞く。どのような基準でこの5社が選んだのか?
桶谷 まずはマッチングする相手企業ありきではない。この半年の準備期間の間で、相当詳しく、坂井市の産業構造とか地政とか調べました。最初から「相手事業者ありき」で、スタートアップを選定して活動を進めていくと、2社の間に何か軋轢ができたら、それですぐに終わってしまいますから。そうではなく、この坂井というエリアで継続的に事業をやっていく産業なのか否か、そこを重視して選考しています。今回は繊維とドローンというテーマを設定し、その2つで紐付けしたスタートアップを全国から探してきています。

―そのテーマだが、繊維は地場産業としてあるから分かるが、ドローンという領域は、何も坂井市でなくても、という疑問も沸く。
桶谷 坂井市に「福井空港」があるというのも、テーマになった要因だが…。もともとはドローンの製造を坂井市でと考えているのではなく、ドローンは将来的に大きな成長が見込める産業なので、実際に飛行実証ができるかどうかが重要になってくる。ドローンは国の規制とか、煩雑な行政の手続きが予想されるが、それをどう突破してやっていけるか、行政の胆力に期待する部分も大きい。坂井市のメンバーはポジティブでそれをやってくれるという、期待もある。あとは周辺の大学など研究機関とも、連携内容によっては相性よくやっていけそうと感じたから。例えば、一言で繊維と言ってもアパレルか非アパレルかなど領域によって、産業形態がかなり異なる。今回、セルロースと宇宙服、さらに木糸による製品開発と、かなりバランスがとれたスタートアップを選ぶことができた、と思っている。もともと坂井市の繊維の場合、最終的に製品化するのではなく、中間加工でかなり高い技術力がある地元企業が多い。だから、中間加工の手前の段階での素材を作れるようなプレーヤーを呼んでいる。
―相当、坂井市を調べ挙げた上での選考だったということか。スタッフは何人いるのか
桶谷 レガシー社が3人、わが社が出資しているスタートアップの「ATOMica(宮崎県)」が2名の5名。うち坂井市常駐が2人でかなり周到に準備してきた。
―初年度は5社のスタートアップを連れてきたが、あなたが今日述べた、坂井市エリアでの産業クラスターとしての定着についてはどのように考えているか。
桶谷 前提としては、連れてきた全社とも成功すると思っているんですが…。最低限でも2社は死守したい。理由として、この共創事業というのは永遠とやるものではなく、5年間できっちり10社を集めきって産業クラスターをつくるのが目的。10年も20年も寄生虫のように自治体にしがみついて予算を食いつぶすコンサルタントの例もありますが、ああいうことはしたくない。5年できっちり(定着するか否か)の答えを出す。それを5年間続けて、毎年5社根付いてくれることを前提としていますが、最低でも毎年2、として5年間で10社が根付くようにやっていきたい。
SAKAI WEAVE
坂井市春江町為国中区に開設する坂井市新産業共創事業のイノベーション拠点。「WEAVE(ウィーブ)」は「織る・編む」の意味を持つ。ロゴマークは坂井市の市章と経糸と横糸で織りなす織物をイメージしており、糸が織り重なり、一枚の布となるように。地域の産業・人々・世代が重なり合い、新たな価値を生み出す場をコンセプトとしている。
ReGACY Innovation Group(レガシー・イノベーション・グループ)
2022年設立後、大手企業や自治体、教育機関などからのベンチャー創出やオープンイノベーションによる事業化に特化したサービス開発や展開を行う。経営コンサルとベンチャーキャピタルの手法を統合することで探索から事業化・収益化までに一気通貫で共創支援することを独自色としている。坂井市と同様の事業としては竹原市(広島県)と組み2023年度から「たけはらDX」が先行始動しているほか、2025年度は4自治体で事業展開を予定している。
代表は代表取締役の成瀬功一氏。本社は東京都千代田区神田神保町。資本金300万円。