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糖型界面活性剤で酸性条件下でも乳酸オキシダーゼ電極が機能 ~GI-SAXSにより酵素電極表面構造の詳細解明~

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東京理科大学

研究の要旨とポイント

 乳酸オキシダーゼ(LOx)-スクロースモノラウレート修飾電極について、pH 5.0における応答電流がpH 7.0の約80%に達することを明らかにし、スクロースモノラウレートが優れた安定化剤になることを実証しました。

斜入射小角X線散乱法(GI-SAXS)を用いて、電極上でスクロースモノラウレートによるヘキサゴナル構造と層状構造が形成されること、LOxがそれらの構造内に埋め込まれて周辺環境から保護されていることを解明しました。

本研究をさらに発展させると、人の汗に対応可能な高性能ウェアラブルデバイスの開発、ひいては革新的なリアルタイムモニタリングシステムの実現に貢献することが期待されます。

【研究の概要】

東京理科大学 創域理工学部 先端化学科の四反田 功准教授、同大学大学院 創域理工学研究科 先端化学専攻の澤原 千晶氏(2024年度 修士課程修了)、同大学 研究推進機構 総合研究院の小倉 卓客員准教授、(株)アントンパール・ジャパンの高崎 祐一博士らの共同研究グループは、斜入射小角X線散乱法(GI-SAXS)という新たな手法を用いて酵素バイオセンサの解析を行い、安定化剤としてスクロースモノラウレートを使用すると、酸性条件下においても乳酸オキシダーゼ(LOx)が機能することを明らかにしました。

近年、ウェアラブルデバイスの開発が注目されており、特に汗中の代謝物モニタリングへの応用が期待されています。しかし、人の汗はLOxなどの酵素が失活する酸性条件になることがあるため、酸性環境での酵素安定化が重要な課題となっています。そこで本研究では、安定化剤として糖型界面活性剤であるスクロースモノラウレートを使用し、酸性条件下での酵素機能を評価しました。また、GI-SAXSを用いて、酵素電極上のLOxおよび糖型界面活性剤の構造を解明しました。

酵素電極表面において、スクロースモノラウレートのコアシェル型のミセルは棒状で堆積した後、ヘキサゴナル構造を形成することがわかりました。一方、電極表面から離れた位置では、スクロースモノラウレートがランダムな方向軸を持つ層状構造を形成することが明らかとなりました。LOxはこれらの構造に埋め込まれるため、LOxの周辺環境はpH変化から保護されると同時に、基質および仲介物質へのアクセスを行うことができます。安定化剤なしの場合の酵素の活性が約50%であるのに対し、LOx-スクロースモノラウレート修飾電極はpH 5.0において約80%の活性を維持しました。

本研究の結果は、GI-SAXSが酵素電極における安定化剤のメカニズムを解明するための強力なツールであることを実証しました。本研究成果をさらに発展させることで、優れた安定性を示す酵素電極や高性能バイオデバイスの開発につながることが期待されます。

本研究成果は、2025年7月26日に国際学術誌「Langmuir」にオンライン掲載されました。

【研究の背景】

近年、酵素を利用したウェアラブルデバイスが注目されています。汗、尿、涙、唾液などの体液を使った非侵襲性デバイスの研究が盛んに行われ、医療や介護分野での応用が期待されています。このようなバイオセンサの最大の課題は、酸性環境での安定性です。人の汗のpHは4.0まで下がることがありますが、乳酸オキシダーゼ(LOx)などの酵素は中性で最も働きやすく、酸性では機能を失ってしまいます。

この問題を解決する方法として、安定化剤で酵素を包活することが知られています。マルトースやスクロースなどの糖は、酵素を安定させる働きがありますが、スクロースモノラウレートのような糖型界面活性剤は、酵素を保護する構造を作ることで安定化効果を示します。ただし、安定化剤の効果は種類や濃度によって大きく変わります。

本研究では、糖および糖型界面活性剤が酸性条件下で酵素電極を安定化できるかを調べました。その仕組みを理解するため、斜入射小角X線散乱(GI-SAXS)という手法を用いて、電極上の安定化剤と酵素の構造を詳しく分析しました。

【研究結果の詳細】

中性~酸性条件下において、糖類および糖型界面活性剤によるLOx電極の安定性を評価しました。マルトースを安定化剤として用いた場合、pH 6.0での応答電流はpH 7.0より低下しましたが、安定化剤を用いない場合と比べて高い値を示しました。しかし、pH 5.0では、安定化剤なしの場合と同様に、応答電流が50%まで大きく減少しました。そのため、マルトースは弱酸性条件では一定の安定化効果を示すものの、酸性条件では効果が期待できないことが明らかになりました。一方、スクロースモノラウレートを用いた場合、pH 6.0での応答電流はpH 7.0とほぼ同等の値を示し、pH 5.0においてもpH 7.0の約80 %の応答電流を維持していました。これらの結果は、スクロースモノラウレートが幅広い酸性条件下でLOx電極の機能を効果的に維持する優れた安定化剤であることを実証しています。

斜入射小角X線散乱法(GI-SAXS, 図1)の結果、LOx単独では識別可能な構造パターンは観察されず、酵素が電極表面上でランダムに配向していることが明らかになりました。一方、スクロースモノラウレート修飾基板では、60°角での高強度パターンを含む半円形パターンが観察され、詳細な解析によりヘキサゴナル構造とランダムな層状構造の共存が確認されました(図2, 3)。スピンコート法による薄膜では主にヘキサゴナル構造が形成され、ドロップキャスト法による厚膜では層状構造も共存することが示されました。LOxとスクロースモノラウレートを共修飾した場合、スクロースモノラウレート由来の構造パターンは著しく弱くなり、特にヘキサゴナル構造由来の高次ピークが消失しました。これは、LOxの存在がスクロースモノラウレートの規則的な構造を部分的に乱すことを示しています。また、基板の表面粗さが増すにつれて構造の検出は困難になりました。これらの結果から、スクロースモノラウレートはLOx存在下でも一定の構造秩序を維持し、酵素の安定環境を提供していると考えられます。

電極表面では、スクロースモノラウレートが親水性表面に親水性部分を向けて配向し、電極付近ではヘキサゴナル構造、電極から離れた場所では層状構造を形成します(図4)。LOxが共存すると、ヘキサゴナル構造は消失し、層状構造も不明瞭になることから、LOxがスクロースモノラウレートの構造内に埋め込まれることが確認されました。この埋め込みにより、LOxはスクロースモノラウレート層に包活され、コアシェル型の複合構造を形成します。スクロースモノラウレート層は選択的透過性を持ち、水や基質は通しますが、プロトンは通さないため、LOxの微小環境のpHは修飾時の中性に維持されます。この結果、酸性条件下でもLOxは安定な活性を保持し、スクロースモノラウレートによる酵素の効果的な保護メカニズムが実現されています。

本研究を主導した四反田准教授は、「汗中乳酸のリアルタイムモニタリングは、スポーツのトレーニング管理や熱中症対策において、重要性が高まっています。汗中乳酸を測定するためには、酸性条件下でも酵素がセンサ上で安定して機能する必要があります。本研究では、安定化剤の使用により、酸性溶液中で酵素が特殊な構造を形成して安定化するメカニズムを、GI-SAXSという新手法を用いて世界で初めて解明しました」と、研究成果についてコメントしています。

※本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(JP24K02819)の助成を受けて実施したものです。

【論文情報】

雑誌名:Langmuir

論文タイトル:Sucrose Monolaurate as a Stabilizer for  Lactate Oxidase Electrodes at Low pH: A Structural Analysis Based on Grazing  Incidence Small-Angle X-ray Scattering

著者:Isao  Shitanda, Chiaki Sawahara, Noya Loew, Yuichi Takasaki, Taku Ogura, Hikari  Watanabe, and Masayuki Itagaki

DOI:10.1021/acs.langmuir.5c02857

  ※PR TIMESのシステムでは上付き・下付き文字や特殊文字等を使用できないため、正式な表記と異なる場合がございますのでご留意ください。正式な表記は、東京理科大学WEBページ(https://www.tus.ac.jp/today/archive/20250828_5845.html)をご参照ください。

出典:PR TIMES

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