ベッコフオートメーション株式会社
― 磁気浮遊式搬送で設置面積90%削減・処理時間60倍短縮を実現 ―
ベッコフオートメーション(ドイツ・フェアル)の製品と技術は、世界各国の多様な業界で活用されています。今回は、ライフサイエンス分野に特化したソリューションを展開する米国のインテグレータ、Automation NTH社(以下、NTH社)による、医療機器アセンブリの事例をご紹介します。従来は手作業で行われていた診断機器の組立工程において、ベッコフの磁気浮遊式搬送システム「XPlanar」を導入することにより、設置面積を10分の1に削減し、処理時間を5分から5秒へ短縮するという大幅な効率改善を実現しました。

ライフサイエンス分野で高まる自動化ニーズ
一般的にライフサイエンスの分野では、変動の多い製品品種を搬送し、将来的なさまざまな変更に柔軟に対応できる生産体制が求められています。こうした背景から、複雑でデータ量の多いアプリケーションを自動化するために、新しい制御技術の導入が進んでいます。
NTH社の営業部長ピーター・サーヴェイ氏は、「特に医療機器アセンブリの分野では、自動化機器をカスタマイズするためにソフトウェアが重要視されています。」と述べています。その一例として、NTH社は、ベッコフのPC制御技術と磁気浮遊式搬送システムXPlanarを活用した診断機器組立機を開発しました。
XPlanar採用の決め手は「柔軟性と将来的な拡張能力」
XPlanarは、磁気浮遊する可動子が6自由度で動作し、搬送・回転・傾斜・持ち上げなどを自在に実現する平面モータシステムです。従来のコンベアや直線的な搬送システムでは難しかった複雑な動作も、非接触かつ高精度に制御できる点が大きな特長です。
これにより、およそ50種類の試薬に対応できる分注装置を備え、3つの機器タイプごとに異なる分注位置に対応できる自動組立システムが誕生しました。
サーヴィー氏はXPlanar採用の背景を次のように説明しています。
「コンベアやロボット、その他のマテハン技術を使って分注ヘッドを製品まで移動させれば、膨大な費用とスペースが必要になります。そのためには、分注ヘッドではなく、製品自体を移動させるべきだと気づいたのです。」
▶ XPlanar 詳細: https://www.beckhoff.com/ja-jp/products/motion/xplanar-planar-motor-system/
XPlanarによる組立工程と導入効果
新しい組立機では、オペレータが手作業で特定の機器を引き出しから取り出して投入します。その後、ロボットがXPlanar可動子のうち1台に機器を搭載し、特注工具で固定したうえで360度回転による画像検査を受けます。
機器を載せた可動子はレシピに応じた分注ステーションで停止します。試薬の充填時には機器を回転させ、正確な分注位置に配置します。分注の合間に2度目の画像検査が実施されます。分注・検査工程の完了後、プラスチックキャップで封止された完成品はオペレータのステーションに搬送されます。可動子は機器を放出後、停止し、オペレータはライトカーテン越しに安全に機器を取り出すことができます。
▶ Automation NTH 医療機器組立機 紹介動画(出典:Beckhoff Automation USA / YouTube)
【XPlanar導入の効果】
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設置面積:従来比1/10(クリーンルームのコスト削減に直結)
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処理時間:5分 → 5秒(60倍のスループットを実現)
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高い再現性とトレーサビリティ(試薬品質の安定化に寄与)
特に高価なクリーンルーム環境では、設備を小型化できることが、ライフサイエンス分野のアプリケーションにおける大きなメリットといえます。
統合制御の中核を担うベッコフの高性能なハードウェア
新しい組立機の制御を支えるのは、ベッコフの制御盤格納型産業用サーバC6670です。Intel® Xeon®テクノロジ・40コア搭載の産業用サーバが、XPlanarと周辺機器の制御を担います。将来のニーズに備えて一部のコアを確保しつつも、十分な演算性能を備えています。自動化ソフトウェアであるTwinCATにはXPlanarのグラフィカルコンフィギュレータが含まれており、タイルレイアウトの作成、ドラッグ&ドロップによる可動子の追加、経路とステーションの設定、モーションプロファイルのシミュレーションなど、直感的な操作をサポートしています。
【ベッコフ採用製品】
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制御盤サーバ C6670:40コアCPUを搭載し、XPlanarと周辺機器を統合制御
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超小型産業用PC C6017:分注制御・データベース管理を実現
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TwinCATプラットフォーム:Microsoft Visual Studio®に統合、柔軟なプログラミングとシミュレーションをサポート
さらに、EtherCATによる高速リアルタイム通信、FSoEによる安全制御により、高精度かつ安全な稼働環境を実現しました。

医療機器製造の新しいコンセプト
今回の事例は、医療機器製造における自動化の新しい可能性を示しています。従来の手作業中心の組立工程を、磁気浮遊式搬送システム「XPlanar」と高度な制御技術によって再設計することで、処理時間の大幅な短縮、設置面積の削減、そして製品品質の安定化を同時に実現しました。
単なる「搬送の自動化」ではなく、「製品そのものを移動させる」という発想の転換と、それを支える統合制御プラットフォームにより、分注や検査など複雑な工程も非接触かつ高精度に実行可能となり、従来では困難だった柔軟性と拡張性が確保されました。
NTH社とベッコフの協働は、クリーンルームコストの削減、高精度な製品品質の維持、そして将来の製品バリエーションへの迅速な対応を可能にし、医療機器製造の「新しいコンセプト」を提示しています。今後もこうした柔軟で高度な自動化技術は、ライフサイエンス分野における製造プロセス革新の中核となることが期待されます。