ローム株式会社
~高い設計自由度と電力密度を実現~
要旨
ローム株式会社(本社:京都市)は、PVインバータやUPS、半導体リレーなどの産業機器向けアプリケーションに最適な、2in1構成のSiCモジュール「DOT-247」を開発しました。パワーデバイスで広く普及している「TO-247」の汎用性はそのままに、高い設計自由度と電力密度の実現が可能です。
DOT-247は、TO-247パッケージを2つ連結した形状を持ち、TO-247では構造上困難だった大型チップの搭載と独自の内部構造により、低オン抵抗化を実現しました。さらに、パッケージ構造の最適化により、熱抵抗をTO-247比で約15%、インダクタンスを約50%低減。これにより、ハーフブリッジ(*1)構成においてTO-247を使用した場合の2.3倍の電力密度を達成し、同等の電力変換回路を約半分の体積で実現できます。

DOT-247を採用した新製品は、ハーフブリッジ、コモンソースの2種類のトポロジーをラインアップしており、NPC回路(*2)やDC-DCコンバータなど、さまざまな回路構成に対応可能です。複数のディスクリート製品を搭載しているこれらの電力変換回路に採用することで、部品点数や実装面積を削減し、アプリケーションの小型化と実装工数、設計工数の削減に大きく貢献します。
ラインアップは、750V耐圧品で4品番(SCZ40xxDTx)、1200V耐圧品で4品番(SCZ40xxKTx)を展開し、2025年9月より月産10万個の体制で量産(サンプル価格:20,000円/個:税抜)を開始しています。なお、車載信頼性規格であるAEC-Q101に準拠した製品も、2025年10月より、サンプル出荷を予定しています。
アプリケーション設計時の評価がすぐできるように、評価用ボードも順次提供予定ですので、担当営業もしくは、ロームWebのお問い合わせ先よりお問い合わせください。

背景
現在、PVインバータでは2レベルインバータが主流ですが、高電圧化の要望に応じ、3レベルNPCや3レベルT-NPC、5レベルANPCといったマルチレベル回路の需要が高まっています。これらの回路のスイッチング部分では、ハーフブリッジやコモンソースといったトポロジーが混在しているため、従来のSiCモジュールで対応するには、カスタム品が必要となる場合が多いです。
この課題に対してロームは、マルチレベル回路の最小構成単位となる上記2種類のトポロジーを2in1モジュール化。次世代電力変換回路に対応できる柔軟性を備えつつ、ディスクリート品よりも回路を小型化することが可能です。
製品ラインアップ

アプリケーション例
PVインバータ、半導体リレー、UPS(無停電電源装置)、ePTO(*3)、FCV(燃料電池車)向け昇圧コンバータ、AIサーバー(eFuse)、EV充電ステーションなど
サポート情報
評価キット
ロームは、自社内にモーター試験装置を備えるなど、アプリケーションレベルのサポートに注力しています。DOT-247の製品を素早く評価・導入していただくための各種サポートコンテンツも準備しており、シミュレーションや熱設計まで含めて、豊富なソリューションで迅速な採用をサポートします。また、ダブルパルステスト用の評価キットを提供しており、すぐに試験を実施することが可能です。

3相インバータ用の評価キットは現在準備中で、リファレンスデザインの提供を11月より開始する予定です。
DOT-247のデザインモデルについて
SPICEモデル: 各品番の製品Webページにて提供中
LTspice®モデル: 2025年10月より3レベルNPC用をWebページ上で提供予定
※LTspice®は、アナログ・デバイセズ社の登録商標です。
他社商標を使用する場合は権利者が決めた使用方法に従ってご使用ください。
詳細につきましては、担当営業もしくは、ロームWebのお問い合わせ先よりお問い合わせください。
「EcoSiC™(エコエスアイシー)」ブランドについて
EcoSiC™は、パワーデバイス分野においてシリコン(Si)を上回る性能で注目されている、シリコンカーバイド(SiC)素材を採用したデバイスのブランドです。ロームは、ウエハ製造から製造プロセス、パッケージング、品質管理方法に至るまで、SiCの進化に不可欠な技術を独自で開発しています。
また、製造工程においても一貫生産体制を採用しており、SiC分野のリーディングカンパニーとしての地位を確立しています。

※EcoSiC™は、ローム株式会社の商標または登録商標です。
用語説明
*1)ハーフブリッジ/コモンソース
2つのMOSFETで構成される電力変換回路の基本構成。ハーフブリッジは、MOSFETを上下に直列に接続し、その接続点から出力を取り出す方式。上下のMOSFETを交互にスイッチングすることで、出力電圧を正負に切り替えられ、インバータやモーター駆動回路など、高効率な電力変換の基本構成として広く利用される。
コモンソースは、2つのMOSFETのソース端子をつなぎ、それぞれのドレインから出力を取り出す方式。ソース端子をまとめることでゲート駆動回路を簡素化でき、マルチレベルインバータなどで使われる。
*2)NPC系マルチレベル回路の種類
NPC(Neutral Point Clamped)は、出力電圧を+、0、−の3段階に分割し、スイッチング素子への電圧負荷を抑えるマルチレベル回路方式。この「0V」の状態を生み出すために使われるのが中点(ニュートラルポイント)で、正電圧と負電圧の中間に位置する接点のことを指す。
T-NPC(T-type NPC)は、中点を安定させるために使うダイオードを、MOSFETなどのスイッチングデバイスに置き換えた構成で、より高効率な動作が可能となる。ANPC(Active NPC)は中点の電位そのものをスイッチで積極的に制御することで、より滑らかな出力波形と高精度な電力変換を実現する。T-NPCやANPCは、より高出力・高効率が求められる用途に適している。
*3)ePTO (electric Power Take-Off)
電動車両のモーターやバッテリーの電力を使って、車両外の作業機械や装置(油圧ポンプ、コンプレッサーなど)を駆動するシステム。従来のエンジン車で用いられていたPTO(Power Take-Off)を電動化したもので、環境対応型の商用車・作業車での活用が進む。