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視野障害の早期発見による交通事故対策

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学校法人 順天堂

~タクシードライバーを対象とした疫学調査~

順天堂大学医学部衛生学・公衆衛生学講座の友岡清秀客員准教授、嶽山英佑協力研究員、谷川武主任教授、和田裕雄教授、佐藤准子助教、﨑山紀子非常勤講師、西葛西・井上眼科病院の國松志保医師、近畿大学の松本長太教授らの共同研究グループは、視野異常*¹と交通事故との関連を明らかにしました。視野障害をきたす代表的な疾患である緑内障*²は、徐々に進行し、視力は良好であるため自覚症状に乏しく、知らない間に進行することが多い病気であり、早期発見が課題とされています。本研究では、視野チェックシート「クロックチャート*³」と「ビックリ箱現象*⁴」の問診により評価した視野異常が交通事故経験と関連することを明らかにし、緑内障の早期発見における「クロックチャート」の有用性が示唆されました。本成果は、セルフチェックツールや問診の活用が視野障害による交通事故の予防や緑内障の早期発見に有用である可能性を示します。本論文はScientific Reports誌に2025年8月26日付で公開されました。

本研究成果のポイント

● タクシー運転手を対象に、視野チェックシート「クロックチャート」と「ビックリ箱現象」に関する問診を用いて視野異常を評価し、交通事故との関連を検討

● 「クロックチャート」による視野異常の所見と「ビックリ箱現象」がある群は、いずれもない群に比べて有意に交通事故経験の割合が増加することを発見

● セルフチェックツールや問診の活用は、視野障害による交通事故予防や緑内障の早期発見に貢献する可能性が示された

背景

わが国では40歳以上の20人に1人、70歳以上では9人に1人が緑内障を有していると日本緑内障学会多治見緑内障疫学調査より考えられています。緑内障はわが国の視覚障害の原因疾患として最も多く、一度進行すると治らないため、早期発見・早期治療・治療の継続が重要です。しかし、緑内障は視力が良好であることから自覚症状に乏しく、緑内障が進行していることに気づかずに運転を続けている可能性があります。緑内障をはじめとした視野障害がある患者では交通事故のリスクが高くなることが先行研究より報告されており、交通事故の予防においても緑内障の早期発見は重要です。

そのため、セルフチェックツール等の簡便な手法による視野異常の発見は、緑内障の早期発見のみならず、交通事故予防にも有用であり、運転寿命の延伸にもつながります。そこで本研究では、タクシードライバーを対象に、視野チェックシート「クロックチャート」(図1)と「ビックリ箱現象」に関する問診を用い、視野異常と交通事故経験との関連を明らかにし、緑内障の早期発見における「クロックチャート」の有用性を検証しました。

内容

本研究は首都圏に勤務する1,227名のタクシードライバーを対象に行いました。「クロックチャート」を用いて視野異常を評価するとともに、問診により「ビックリ箱現象」の有無を評価し、過去5年間の交通事故との関連を検討しました。

その結果、対象者の約15%が「クロックチャート」による視野異常の所見を有し、約40%が「ビックリ箱現象」を有しており、さらに、約60%が交通事故を経験していました。そして、「クロックチャート」による視野異常の所見を有し、かつ「ビックリ箱現象」を有している群では、いずれもない群に比べ交通事故のリスクが1.22倍と有意に高いことが示されました(図2)。さらに、「クロックチャート」による視野異常が確認された326名を対象に眼科への受診勧奨を行い、その受診状況を追跡したところ、眼科を受診した71名中14名(19.7%)が新たに緑内障と診断されました。

本研究結果は、タクシードライバーにおいて、「クロックチャート」による視野異常の所見や「ビックリ箱現象」がある人は、交通事故経験を高めることを明らかにしました。また、「クロックチャート」の活用が緑内障の早期発見にもつながる可能性が示されました。この結果から、セルフチェックツールである視野チェックシート「クロックチャート」や「ビックリ箱現象」の問診を活用することにより、視野障害に起因する交通事故の予防や安全運転の促進に寄与することが期待されます。

今後の展開

本研究は、「クロックチャート」や「ビックリ箱現象」に関する問診により評価した視野異常と交通事故経験との関連を明らかにするとともに、「クロックチャート」は緑内障の早期発見に有用である可能性を示しました。緑内障等による視野障害は交通事故の原因となりますが、自覚症状に乏しく、早期発見が重要です。しかし、トラック・バス・タクシーなどの職業ドライバーでは、労働安全衛生法で定められた健康診断項目が視力検査だけであるため、視野障害に気づかず運転を続けている例があると考えられ、職業ドライバーにおける視野障害のスクリーニング体制の整備が求められます。今後、長期的な追跡研究や介入研究により、「クロックチャート」などのセルフチェックツールの有効性をさらに検証することで、視野障害による交通事故を削減することが期待されます。一方で、セルフチェックツールによる検査は検査者による結果のバラツキも大きいことから、視野障害を原因とする交通事故を予防するためには、健康診断における眼底検査の拡充など、客観的な検査の整備も求められます。

    

図1:クロックチャート

クロックチャートは、直径40㎝の円形の紙で作られており、中心からの視野角度5°範囲に格子と花びらが描かれ、10°の位置にテントウムシ、15°の位置にイモムシ、20°の位置にチョウ、25°の位置にネコが描かれている。被検者は、約35㎝の距離から片眼でクロックチャートの中心部を見つめた状態で、マリオット盲点に位置するイモムシが見えなくなることを確認する。次に、その状態でクロックチャートをゆっくりと時計回りで回転させ、一周する間に生き物のイラストが見えなくなる場所があれば視野異常の可能性が疑われる。

    

図2:クロックチャートによる所見の有無とびっくり箱現象の有無の組み合わせと交通事故経験との関連

交通事故経験のリスクは、クロックチャートによる所見とビックリ箱現象がともにない群に比べ、ビックリ箱現象のみがある群では1.16倍、そしてクロックチャートによる所見とビックリ箱現象をともにある群では1.22倍と有意に高かった。

用語解説

*1 視野異常: 視野とは、目を動かさずに1点を注視した時に見える範囲のことを指す。この視野の一部が欠損または狭窄した状態等が視野異常である。

*2 緑内障: 緑内障は何らかの原因で目と脳をつなぐ「視神経」が障害され、視野(見える範囲)が狭くなる病気であり、眼圧の上昇がその原因の一つであると考えられている。

*3 クロックチャート: 近畿大学の松本長太教授が開発した片眼で行う視野異常のセルフチェックツール。クロックチャートは、直径40㎝の円形の紙で作られており、中心からの視野角度5°範囲に格子と花びらが描かれ、10°の位置にテントウムシ、15°の位置にイモムシ、20°の位置にチョウ、25°の位置にネコが描かれている。クロックチャートは、日本眼科啓発会議アイフレイル啓発公式サイト(https://www.eye-frail.jp/clockchart/selfcheck/)から確認することができる。

*4 ビックリ箱現象: 緑内障患者が運転中にしばしば経験するヒヤリハット経験。本研究では、「交差点にあるはずの信号機がなくなっていたことがある」、「普段あるはずの一時停止の標識がなくなっていたことがある」、「突然、車や自転車、歩行者等が目の前に飛び出してきた、または目の前から消えたことがある」、「突然、歩行者が目の前に飛び出してきた、または目の前から消えたことがある」、「周辺の車の流れに比べ、いつの間にかスピードが落ちている、または速くなっていることがある」、「車線を守って走っているつもりなのに、いつの間にか歩道側又は対向車線側にはみ出してしまうことがある」、「道路標識がよく見えず、標識内容に従った運転をすることが難しいときがある」、「時々、自分が道路上のどこの位置を走っているのかわからなくなり混乱する時がある」、「家族などの同乗者から、危ない運転だった等と指摘されたことがある」の9つの項目について経験の有無を調査した。

研究者のコメント

● 緑内障による視野障害は、ゆっくりと進行するため、自分では「ふつうに見えている」と思い、受診をせずに運転を続けるケースが多いです。

● 緑内障の早期発見・早期治療・治療の継続により運転寿命を延ばしていただけることを願っています。

原著論文 

本研究はScientific Reports誌で(2025年8月26日付)公開されました。

タイトル: The association between self-checked visual field impairment and motor vehicle accidents among Japanese taxi drivers

タイトル(日本語訳): セルフチェックツールにより評価した視野異常と交通事故経験との関連

著者:Kiyohide Tomooka, Eisuke Takeyama, Shiho Kunimatsu-Sanuki, Setsuko Sato, Noriko Sakiyama, Hiroo Wada, Chota Matsumoto, Takeshi Tanigawa

著者(日本語表記): 友岡清秀1)、嶽山英佑2)、國松志保3)、佐藤准子1)、﨑山紀子1)、和田裕雄2)、松本長太4)、谷川武2)

著者所属: 1)順天堂大学医学部衛生学・公衆衛生学講座、2)順天堂大学大学院医学研究科公衆衛生学、3)西葛西・井上眼科病院、4)近畿大学眼科学教室

DOI: 10.1038/s41598-025-16676-0    

研究は公益財団法人国際交通安全学会の支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

出典:PR TIMES

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