三菱電機株式会社
バイタルデータを日常的かつ継続的に計測し、ウェルビーイングや安心・安全な社会の実現に貢献

三菱電機株式会社は、心拍や呼吸などに伴う体表面および人体内部構造の微小変動(※1)を、非接触で高精度に検出する新方式の生体センサーを開発(※2)しました。本センサーは、スマートウォッチなどの接触型センサーの適用が難しい利用シーンなどにおいても、日常的かつ継続的にバイタルデータを計測することを可能とし、利用者の健康管理や高齢者の見守りなど、ウェルビーイングや安心・安全な社会の実現に貢献します。
近年、スマートウォッチなどの普及により、日常生活の中で継続的に計測したバイタルデータから、個人の心身の状態を推定し、健康管理などに活用する動きが広がっています。また、企業では、従業員の健康管理と生産性向上が重要なテーマとなっており、従業員の心身状態の可視化、個々人に適した労働環境の提供、要改善作業の見える化などに向けて、バイタルデータを起点とした新たなアプローチが注目されています。さらに、政府が掲げる「2040年までに健康寿命を3年以上延伸する」という目標(※3)の実現に向けては、日常的な生体センシングによって得られたバイタルデータを収集・分析し、活用する仕組みが有効と考えられています。一方で、スマートウォッチなどの接触型のセンサーは、装着の煩わしさや皮膚トラブル、作業の安全性確保などの観点から使用が制限される場面があるため、非接触で高精度にバイタルデータを計測できるセンサーの活用が期待されています。
本センサーは、体表面および人体内部構造の微小変動を、微弱な電波を用いて電磁界の変化として捉えることにより、非接触で心拍などを計測できる新方式の生体センサーです。センサーの装着位置や体格などの個人差を検出し、センサーの感度を自動的に最適化する機能により、常に安定したセンシングを実現しました。さらに、電磁界の変化に加え、衣服越しに伝わる心拍の振動も計測することでセンシング精度を高め、衣服の上から肌に触れることなくバイタルデータを計測することを可能としました。また、これら複数のセンシング情報を組み合わせたマルチモーダルセンシングと、機械学習を利用した心拍間隔の抽出アルゴリズムを採用することで、スマートウォッチなどの接触型センサーと同等の計測精度(※4)を実現しました。これにより、利用シーンや対象者に応じて、さまざまなセンサー機器の中から最適なものを選択できる環境を提供し、生体センシング技術の活用範囲を拡大します(※5)。
今後は、高精度なバイタルデータから労働者の心理状態などを分析することで、個々人に適した労働環境の提供など、生産性向上につながるソリューションの実現に向けた研究開発に取り組むとともに、本センシング方式の心拍間隔計測以外への適用研究を進めることで、ウェルビーイングや安心・安全に働ける社会の実現に貢献します。
■開発の特長
1.センサー近傍の電磁界の変化から、非接触でバイタルデータの計測が可能な新方式の生体センサーを開発
・体表面および人体内部構造の微小変動を、微弱な電波を用いて電磁界の変化として捉える新方式の生体センサーを開発
・遠方まで届く電波を用いるレーダーや光学センサーのように周囲の物体の動きや外光などによるノイズの影響を受けることなく、心拍数や呼吸数などのバイタルデータを高精度に計測可能
・体内に浸透しやすい周波数の電波を使用することで、体表面だけでなく心臓の構造変化をはじめとした人体内部構造の微小変動を非接触で計測可能


2.装着位置や体格などの個人差に応じてセンサー特性を自動調整し、センサーの高感度化を実現
・センサー特性を自動調整する回路(※6)を実装することで、センサー近傍の電磁界の検出感度を最適化。センサーの装着位置や利用者の体格などの個人差による計測感度への影響を低減することで、センサーの高感度化と安定化を実現し、衣服などの上から肌に触れることなくバイタルデータの計測が可能
・自動調整回路や電磁界センシング用の送受信回路、アンテナ、制御装置などを含めたセンサーデバイスは90mm×60mm×4mm(※7)と小型であるため、胸ポケットに入れての利用や社員証との一体化などが可能
3.スマートウォッチと同等の心拍間隔の計測精度を実現
・心拍に伴う体表面や人体内部構造の微小変化を計測する電波センサーの情報と、衣服を伝わる心拍の振動を計測する加速度センサーの情報とを組み合わせたマルチモーダルセンシングに加え、個人差が大きい取得波形から心拍間隔を高精度に抽出する機械学習を適用したアルゴリズムを採用
・ストレスレベルの推定や疾患の検知に用いられる心拍間隔の計測において計測精度を検証した結果、スマートウォッチ(※8)の誤差が28.5ミリ秒(※9)であったのに対し、本センサーは同27.0ミリ秒と同等であることを確認(※10)
■今後の予定・将来展望
今後、高精度なバイタルデータを活用し、従業員の心理状態やストレスレベルを分析することで、生産性の向上につながるソリューションの提供を目指します。具体的には、健康状態や心身状態の把握に加えて、個々人に適した労働環境の提供、要改善作業の見える化などを通じて、人口減少社会における経済発展と、誰もが安心・安全に働ける社会の実現に貢献します。また、社外の開発パートナーと連携し、本センシング方式の心拍間隔計測以外への応用研究も進めることで、より幅広い分野への展開を図っていきます。
あわせて、心拍間隔などのバイタルデータの計測にとどまらず、本センシング方式を応用した新たな技術展開にも取り組む計画です。本センサーを活用した健康状態や生産性の改善に関心を持つ開発パートナーを広く募集し、共創を積極的に進めることで、人体内部構造の微小変化の検出や、従来の生体センサーでは計測が難しかった人体の内部構造に基づく新たなバイタルデータの計測、梱包容器内の状態の判別など、接触できない対象物の形状変化や物質的変化の検出を可能とする非接触センシングの適用範囲拡大を目指します。
なお、本技術の詳細は「MEMS センシング&ネットワークシステム展 2026」(2026年1月28日~30日、於:東京ビッグサイト)に出展します。
■三菱電機グループについて
私たち三菱電機グループは、たゆまぬ技術革新と限りない創造力により、活力とゆとりある社会の実現に貢献します。社会・環境を豊かにしながら事業を発展させる「トレード・オン」の活動を加速させ、サステナビリティを実現します。また、デジタル基盤「Serendie®」を活用し、お客様から得られたデータをデジタル空間に集約・分析するとともに、グループ内が強くつながり知恵を出し合うことで、新たな価値を生み出し社会課題の解決に貢献する「循環型 デジタル・エンジニアリング」を推進しています。1921年の創業以来、100年を超える歴史を有し、社会システム、エネルギーシステム、防衛・宇宙システム、FAシステム、自動車機器、ビルシステム、空調・家電、デジタルイノベーション、半導体・デバイスといった事業を展開しています。世界に200以上のグループ会社と約15万人の従業員を擁し、2024年度の連結売上高は5 兆5,217 億円でした。詳細は、www.MitsubishiElectric.co.jpをご覧ください。
※1 外的な形状変化のみではなく、心臓内部の構造変化などの物質的変化も検出可能
※2 本センサーはウェルネスおよび日常的な健康管理を目的としたものであり、疾病の診断・治療・
予防等の医療目的での使用を意図したものではありません
※3 厚生労働省「健康寿命延伸プラン」
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/001471359.pdf
※4 当社計測結果による
※5 当社が実施した「活動量/移動量、健康データを測定できるウェアラブルデバイスとして、肌への
接触有無の観点で使っても良いと思う形態はどれか」というWebアンケート調査(回答者1,000
名)の結果は接触型37%、非接触型25%、どちらでも良い38%であり、非接触型を求める声が
回答数の1/4と、一定数のニーズがあることを確認
※6 センサーの装着位置や利用者の体格などの個人差によって生じる、センサーに搭載された
アンテナの特性変化をモニタし、センサーが高感度になるように、アンテナ特性を自動調整する
回路
※7 バッテリー、筐体除く
※8 本検証には広く一般に使用されているスマートウォッチを使用
※9 1,000分の1秒
※10 デスクワーク中の被験者20人の誤差中央値
<お客様からのお問い合わせ先>
三菱電機株式会社 情報技術総合研究所
〒247-8501 神奈川県鎌倉市大船五丁目1番1号
https://www.MitsubishiElectric.co.jp/corporate/randd/inquiry/index_it.html