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弊社川口宛に寄せられた質問への回答

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アスタミューゼ株式会社

弊社のエグゼクティブチーフサイエンティストであり「2060 未来創造の白地図」および「2080年への未来地図」著者、川口伸明が8/21にラジオNIKKEI「Business EXpress」、および8/27に株式会社日本能率協会総合研究所(MDB)様と共同で開催したセミナー「AI覇権時代の“グローバル新常識” ~10年後・20年後のビジネス世界地図の情勢は?」に登壇した際に参加者の皆様にいただいた質問への回答をまとました。

※個人情報の関係から質問者様の情報等は省略させていただいております。

目次

1:おすすめの情報源について

【質問】

おすすめの雑誌、単行本などはありますか?

【回答】

AI関係では、出版物は情報鮮度が古くなりやすく賞味期間は半年もない場合が多いので、YouTubeやTEDなどの海外有識者による動画、海外のニューズレター(Medium Daily Digestなど)、ネット上の情報が役立ちます。ただし、それらは正しい情報という意味でなく、インプットとして参考になるが、活用は自己判断・自己責任が大前提となります。

具体的なおすすめチャンネル:

  • 長形式インタビュー:Lex Fridman Podcast、The Tim Ferriss Show、All-In Podcastなど

  • 講演・カンファレンス:TED Talks、Stanford講演、Y Combinator Startup School

  • 書籍・論文:ピーター・ティールの『Zero to One』、アッシェンブレナーの「Situational Awareness」(講演スライドにリンクあり)など

  • Twitter/X:リアルタイムの思考プロセスや反応を追跡

  • 企業ブログ・レター:OpenAIのブログ、Tesla/SpaceXの技術更新

  • 日本語のYouTube番組:シンギュラリティサロン(上級者向け)、The WAVE TV【AIの最新動向解説チャンネル】(上級者向け)、安野貴博@新党チームみらい(初級・中級者向け)、mikimiki web スクール(初級者向け)

2:テックリーダーを理解するフレームワークについて

【質問】

テックリーダーたちの思考や動向を読み解くために、具体的にどのような情報源や思考のフレームワークを活用することが有効か?

【回答】

思考フレームワーク・実践的な読み解き手法については以下の組み合わせを意識しています。

  • 発言の文脈分析:誰に向けて、いつ、どのような状況で発言されたかを重視

  • 行動と発言の整合性:実際の投資・事業判断と公的発言の一致度を検証

  • 時系列変化の追跡:同一テーマに対する見解の進化を長期的に観察

  • 相互作用の分析:彼らがどのように互いに影響し合っているかを観察

  • 頻出キーワードの組み合わせ:特に最近頻度が増えてきた言葉に注目

  • 人物ネットワークの変化:論文等の共著者、特に異分野との交流に注目

これらを多角的に見ることで、情報の深掘りだけでなく、未来予測の幅出しができると考えています。

3:脱希少性経済への移行の可能性について

【質問】

エネルギーの限界費用ゼロとなった場合、即ちPost-Scarcity Economy(脱希少性経済)への移行もありうるか? 

【回答】

「限界費用ゼロ」の実現には慎重な検討が必要です。核融合や宇宙太陽光発電でも、設備建設・維持費や初期投資などの固定費用は残り、完全なコストゼロは困難です。エネルギーコストの劇的低下は経済構造を変革しますが、完全な脱希少性には限界があります。レアメタル、環境容量、人間の時間、土地利用などの制約は残り、AGI/ASI自体も物理的制約に直面する可能性があります。

現実的には段階的移行が予想されます。エネルギー集約産業から順次コストが低下し、経済全体の価格体系が変化する過程で、労働の性質や価値の定義、富の分配システムの根本的見直しが必要になるでしょう。

短期的(2030年代)には、台湾の前デジタル担当大臣のオードリー・タンらが提唱する「Plurality」(多元性;多様なAI×人間協調による分散的合意形成)のように、デジタル民主主義を基盤に政治・経済システムのゆるやかなデジタル化が進み、2050年から2060年ごろには、オックスフォード大学の哲学者ニック・ボストロム(Nick Bostrom)が2024年に出版した著書『Deep Utopia: Life and Meaning in a Solved World』にあるような「すべての社会課題が解決された世界」を目指すようになるのかもしれませんが、おそらく永遠の未踏問題になるでしょう。既存の課題が解決するたびに、より深くより高い課題や目標を設定するという、自己実現と自己超越への欲求はなくならないからです。

4:中小企業のAI活用について

【質問】

中小企業のものづくりにAIを活かすことで、日本の工業生産性、さらには社会全体のパワーアップに貢献できないか?

【回答】

日本の中小企業におけるAI活用は、製造業全体の競争力向上において非常に重要です。

とりわけ、少子高齢化への対応として、ノウハウのAI化は必須であり、熟練者の技能を完全代替するのではなく、まず判断支援ツールとして活用することが現実的です。とくに「技能継承AI」として、退職前の熟練者の知見をシステムに蓄積し、属人的技術を組織資産にすることが有効です。

また、導入の民主化として、クラウドベースのAIサービスにより初期投資を抑制し、スマートフォンを活用した簡易検査システムなど、気軽に使えるツールの提供が求められるでしょう。業界団体や自治体との連携による共同利用システムも重要です。こうした小回りの利く技術やサービスの提供には、業界業種ごとにカスタマイズされた中小企業のノウハウがとくに有望です。

5:脳活動のコーディング技術について

【質問】

fMRIの時空間解像度が劇的に進歩しているわけではない中で、どのようにデコーディングの精度を向上させているのか?

【回答】

脳活動からの視覚イメージデコーディング技術は、fMRIの解像度向上以外の要因で大幅に進歩しています。

  • 深層学習の活用:従来の線形分類器から畳み込みニューラルネットワークへの移行により、複雑な視覚パターンの解読精度が向上。

  • 視覚野理解の深化:V1からIT野まで各領域の機能に最適化されたデコーディング手法を開発。

  • マルチモーダル学習:視覚・言語・他感覚情報の統合でコンテキストを豊富化。個人適応化: 集団平均から個人の脳特性を考慮したパーソナライズモデルへ移行。

6:AIによる知覚認識について

【質問】

今後、AIによる人の知覚の認識は、どれくらいのスピードで進んでいきますか?

【回答】

今後の発展予測として、AI技術の指数関数的進歩により従来予想を上回るスピードで発展する可能性が高いが、倫理・プライバシー課題の解決が発展速度の重要な制約要因となると考えられます。

  • 短期(2-5年):リアルタイムデコーディング、複雑な視覚シーン解読、個人適応システムの普及。

  • 中期(5-10年):脳-コンピューター・インターフェース実用化、想像・記憶内容の部分的可視化、高次認知機能解読。

7:AIの不確実性について

【質問】

AIも、人と同じように情報や知識を保有し考えるという点から、あやまった情報や古い情報、反社会的な思想などを元に、不適切な回答をしたり、AI自体が学習する中で、思想や考え方がかたよったり、人間らしくなり、複雑、面倒なjobに対して手を抜いたりというような事態が発生するのでは?

【回答】

まず重要なのは、現在の生成AIは本質的に未完成の技術であるという認識です。

「ポチョムキン理解」(Potemkin Understanding)という表現が示すように、AIは表面的には人間のような理解や知識をしめしますが、その内部的な理解は人間のそれとは根本的にことなり、完全ではありません。この前提にたつことで、以下のような取り組みがより意味を持ちます。

AIが古い情報やあやまった情報にもとづいて回答する問題はたしかに存在します。これに対しては、

  • 学習データの継続的更新:新しい情報を定期的に学習に反映させる仕組み

  • 情報源の明示:回答の根拠となる情報源を示すことで検証可能にする

  • 不確実性の表現:AIが確信を持てない場合は、その旨を明示する

  • 最新情報の取得:知識のカットオフ日(公開前の事前学習範囲)以降の情報については検索ツールを使用して最新情報を取得する

などの設計がされていると思われます。

一方、AIの思想や考え方がかたよる問題については、

  • 多様なデータセット:様々な視点や立場を反映したデータで学習

  • バイアス検出・軽減技術:学習過程や出力において偏見を検出し修正

  • 人間によるレビュー:AI研究者や倫理専門家による継続的な監視

また、AIが複雑な作業を避けるような行動については、

  • 一貫性を保つ設計:タスクの複雑さに関わらず同じ品質基準で対応

  • 透明性の確保:なぜ特定のアプローチを取るか説明する

  • 制約の明示:できないことは明確に伝える

といった対策が取られるものと思われますが、AIが本当に「面倒だから手を抜く」のか、それとも技術的制約なのかは、まだ完全には解明されていない部分もあります。 

8:サイバーセキュリティについて

【質問】

サイバーセキュリティにおける問題についてうかがいたいです。

【回答】

以下の観点が特に重要です。

AI強化型攻撃の進化:

  • 高度化するソーシャルエンジニアリング:人間と見分けがつかない偽装コミュニケーション

  • 自動化された脆弱性探索:AIが24時間体制でシステムの弱点を探索

  • 適応型マルウェア:検知システムを学習して回避する自己進化型攻撃

  • 大規模ディープフェイク攻撃:経営陣や取引先になりすました詐欺の巧妙化

対策として準備すべき要素:

  • ゼロトラスト原則の徹底:すべての通信・アクセスを検証、アルゴリズム監査

  • AI駆動型防御システム:攻撃にAIで対抗する防御機能

  • 人的検証プロセス:重要な意思決定における複数人による確認体制、個人データ保護

  • 継続的なセキュリティ教育:新たな脅威パターンへの対応力向上

  • 経済安全保障の観点:国境を越えるデータ流通、知的財産の保護

  • サプライチェーンセキュリティ:代替手段の準備、ベンダーロックイン回避

  • 地政学的リスク:国際情勢変化によるAIサービス利用制限への備え

9:AIによる仕事の変化について

【質問】

AGIやASIによる事業の置き換わり、撤退、新展開にどのように備えるべきでしょうか? 

【回答】

江戸時代の飛脚はなくなりましたが、現在の郵便や宅配、ドローン輸送など形をかえて飛脚の仕事は進化的に続いているともいえます。あらたな職はあらたなデバイスやアルゴリズムが開発されるとさらに増え、加速するでしょう。

よって、個々の職業が消えるか残るかの予想はあまり意味がなく、どう形を変えるのか、その変容を先読みすることが重要です。たとえば、ものづくり現場においては、今回の講演でも取り上げた産業メタバースやAI駆動のデジタルツインの導入が進むと考えられます。そこでは、NvidiaのOMNIVERSEをはじめ、Physical AI・Embodied AI・空間知能・デジタルヒューマンなどが活躍するでしょう。

その観点では、2030年代に向けた職業マインドセットとして、以下が重要です。

  • 飛脚→郵便→宅配→ドローン配送のように、「情報・物資を確実に届ける」という本質的価値は不変

  • AI時代では「判断する」「創造する」「関係を築く」といった人間の核心的機能が、より高次元で求められる

つまり進化・分化をとらえることが必要となります。具体的な職業で例示します。

  • 医師:診断データ解析はAIが担い、患者との対話・治療方針決定・倫理判断に集中

  • 金融アナリスト:市場データ分析はAIが行い、戦略立案・リスク解釈・顧客関係構築が中心に

  • 軍事専門家:戦術分析はAIが支援し、戦略判断・外交的配慮・人道的判断を重視

具体的な準備のフレームワークとしては、以下の様に現在の職業を3層で分解することです。

  • 作業層:ルーチン的・定型的業務(AI化が進む部分)

  • 判断層:経験・知識に基づく意思決定(人間-AI協働部分)

  • 価値層:創造性・倫理性・関係性が求められる部分(人間中心部分)

この視座で、自分・自社の「価値層」を常に進化させ、新しいAI技術との組み合わせで新たな価値創造の可能性を探ります。重要なのは「職業が変わる」ことを、脅威ではなく「より高次で人間らしい価値を発揮する機会」としてとらえることです。

10:GPT-OSSについて

【質問】

GPT-OSSをカスタマイズするスキルやコストはどれくらいになるでしょうか? また、製品開発に超知能AIを応用した場合、品質が担保されているエビデンスは何になりますか?

【回答】

導入・運用コストや必要なツール・スキル・リソースは使用目的(ナレッジ管理といった低ハードルからプロセス自動化など高ハードルまで)や運用規模に応じて相当に開きがありますので、専門のAI/ITベンダーやSIに相談していただくのが良いと思います。

OpenAIのGPT-OSSは現在利用可能であり、今後、同社ブログをはじめ、ユーザーサイドからも、

  • ソフトウェア開発:GitHub Copilotの生産性向上データ(コード作成時間短縮)

  • 文書作成:技術文書の品質向上事例(一貫性、網羅性の改善)

  • 設計初期検討:コンセプト生成での発想支援効果

など限定的なエビデンスが発表される可能性がありますが、再現性や恒常性能を保証するものではありません。

そもそも現在のLLMには「ブラックボックス問題」があり、完全な説明可能性は困難です。さらに、AGIやASIが未達の現時点では、AGI/ASIによる完全な品質担保のエビデンスは存在しません。AGI/ASIが実現したとしても、自動的に完全性が保証されるとは考えにくいと思います。

少なくとも2030年代初頭までは、「AI完全依存」ではなく「AI活用による人間の能力拡張」という視点で、現実的な品質管理体制を構築することが主たる目標になるでしょう。


質問と回答は以上となります。

アスタミューゼでは、川口による無料ウェビナーを今後も順次開催していきます。また、過去講演についても定期的に再配信しております。

弊社コーポレートサイトの「セミナー・イベント」のページにてご案内しておりますので、よろしければぜひご確認ください。

アスタミューゼ株式会社について

未来創造・社会課題解決に繋がる新規事業・イノベーションの創出・投資を理念として、20年で国内大手企業だけでも400社以上を支援。インパクトのある事業や売上100億円以上の規模の新規事業等を多数創出。戦略支援・ノウハウ提供だけではなく、世界最大級の技術/無形資産、成長市場/社会課題/バリューチェーンに関連するデータ基盤を構築し、各領域/技術毎の専門家が在籍する事で、公開情報のみの生成AIやブレストでは生み出せないアイデアやインサイトを導出するアルゴリズム、AIエージェントも提供。また、新規事業・イノベーション支援だけではなく、官公庁、事業会社、投資家/VCに対し、未来推定、M&A支援、技術/非財務評価等の実績も多数。 

会社名:アスタミューゼ株式会社 

所在地:東京都千代田区神田錦町二丁目2番地1 KANDA SQUARE 

設立日:2005年9月2日 

代表者:代表取締役社長 永井 歩

出典:PR TIMES

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企業プレスリリース詳細へ (2025年10月2日 15時02分)

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