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慢性腎臓病が進行するメカニズムの一端を解明~ケモカインであるCCL5の慢性腎臓病における相反する役割を発見~

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国立大学法人千葉大学

 千葉大学大学院医学研究院 淺沼克彦 教授、木村元子 教授、那須亮 講師、同大大学院医学薬学府博士後期課程のIka N. Kadariswantingshi氏(研究当時)、奥永一成氏、山崎佳穂氏らの研究グループは、塩基性タンパク質であるケモカイン(注1)の一つ、CCL5(注2)が慢性腎臓病において相反する役割を持っていることを発見しました。この成果は、慢性腎臓病が進行する原因の解明や、進行抑制する方法の開発につながることが期待されます(図1)。

 本研究成果は、American Society for Clinical Investigation (ASCI) が発刊する科学誌 JCI Insight にて2025年9月23日にオンライン公開されました。

研究の背景

 腎臓の機能が悪化していく病気を慢性腎臓病といいますが、その進行には蛋白尿が関わっていることが知られています。腎臓は、血液から老廃物を取り除き、尿として排出する働きを持っています。そのろ過の中心的な役割を果たすのが、「糸球体」と呼ばれる毛糸玉のような毛細血管の塊です。この糸球体には「糸球体足細胞(ポドサイト)(注3)」という特殊な細胞があり、フィルターの最終バリアとして通常は蛋白質が尿に漏れないよう守っています(図2)。慢性腎臓病では、糸球体が傷つくことでポドサイトも障害を受け、血液中の蛋白質が尿へと漏れ出すようになります。これが蛋白尿です。そして、糸球体の数が減るにつれて、腎臓の機能も低下していきます。

 しかし、この慢性腎臓病を促すメカニズムは未だ十分に理解されておらず、効果的な治療法も限られています。そのため、ポドサイトの損傷や炎症を制御する原因分子を特定することは、効果的な治療薬開発に不可欠です。研究グループは、さまざまな炎症性疾患に関与するケモカインという蛋白質であるCCL5に着目しました。このCCL5は、複数の腎疾患に関与していることが知られていますが、ポドサイトの損傷及び修復に対するCCL5の働きについては、不明な点が多く残されていました(参考文献1-3)。そこで研究グループは、CCL5の慢性腎臓病進行への役割を検討しました。

 

研究の成果

 以下の①〜②の結果より、腎障害時にCCL5はポドサイトには保護的に働くが、糸球体へ浸潤するM2マクロファージ(注4)数を減少させることにより慢性腎臓病を進行させることがわかりました。

①CCL5は、慢性腎臓病を引き起こすさまざまなヒト腎疾患のポドサイトで多く発現しており、培養ポドサイトにCCL5を加えるとポドサイト障害が軽減することから、ポドサイト障害に保護的に働くことがわかりました。

②次に、CCL5がないマウスに慢性腎臓病を引き起こすと、腎障害が悪化すると予想していたのですが、実際には、腎障害が軽減しましました。この予想外の結果から、CCL5は、腎障害時に糸球体に浸潤してくる免疫細胞(マクロファージ)を介して障害を悪化に導くと考え、普通のマウスにCCL5がないマウスの免疫細胞を骨髄移植し、そのマウスに慢性腎臓病を引き起こしてみました。そうすると、そのマウスの腎障害は軽減しました。さらに、CCL5のマクロファージに対する役割は、抗炎症性マクロファージ(M2)よりも炎症性マクロファージ(M1)を増やすことによって腎障害を悪化させることもわかりました(図1)。

今後の展望

 本研究では、CCL5がポドサイトに対しては保護的に、腎臓のマクロファージに対しては炎症を悪化させる方向に働くことがわかりました。今後は、CCL5の個々の細胞における作用を詳細に解明することで、慢性腎臓病の新たな治療薬を見つけることができると考えられます。

用語解説

注1) ケモカイン:白血球などの免疫細胞を炎症や感染のある場所に呼び寄せるための「目印」として働く蛋白質。体の中で細胞の移動や集まりを調整する信号役を担う。

注2 ) CCL5:白血球などの免疫細胞を特定の場所へ誘導する働きをもつケモカインの一種。免疫細胞以外の細胞もCCL5を作っていることが知られており、その機能は免疫防御や炎症、細胞ごとに異なる。

注3)糸球体足細胞(ポドサイト):糸球体にて血液の成分をろ過して尿を作る時、血液中の蛋白が漏れ出さないように、毛細血管の表面を覆っている細胞。ポドサイトの数が減少すると血液中の蛋白が漏れだして蛋白尿が出るようになり、それが持続すると糸球体そのものが壊れて、血液のろ過が十分に行えなくなる。

注4)マクロファージ:免疫細胞の一つで、全身の組織に広く分布し、体内に侵入した異物を食べて消滅させたり、他の免疫細胞へ知らせたりする役割がある。マクロファージ(M0)は活性化されると、炎症を引き起こす炎症性マクロファージ(M1)と組織修復に働く抗炎症性マクロファージ(M2)に分化し、そのバランスがさまざまな病態形成に関わっている(図3)。

■論文情報

タイトル:CCL5 paradoxically regulates glomerular injury by skewing macrophage polarization

著者:Ika N. Kadariswantiningsih, Issei Okunaga, Kaho Yamasaki, Maulana A. Empitu, Hiroyuki Yamada, Shin-ichi Makino, Akitsu Hotta, Hideo Yagita, Masashi Aizawa, Ryo Koyama-Nasu, Motoko Y. Kimura, Narihito Tatsumoto, Katsuhiko Asanuma

雑誌名:JCI Insight

DOI:10.1172/jci.insight.173742

■参考文献

1)Panzer U, et. al., The chemokine receptor antagonist OP-RANTES reduces monocyte infiltration in experimental glomerulonephritutis. Kidney Int. 1999; 56(6):2107-15

2)Andrers HJ,et. al.,CC chemokine kigand 5/RANTES chemokine antagonists aggravate

glomerulonephritis despite reduction of glomerular leukocyte infiltration. J Immunol.

2003;170(11):5658-66

3)Krensky AM, et. al., Mechanisms of Disease: regulation of RANTES(CCL5) in renal disease. Nat Clin Pract Nephrol. 2007;3(3):164-70

4) 2023年5月9日発表 プレスリリース「腎臓病進行を抑制する方法を発見」

■研究プロジェクトについて

 本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(17K19653)挑戦的研究(萌芽)、(18H02823)(23H02923)基盤研究(B)などの支援を受けて行われました。

出典:PR TIMES

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企業プレスリリース詳細へ (2025年10月7日 09時00分)

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