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2027年の善光寺御開帳に向け、長野市が挑むインバウンド急増時代の観光変革 ー 長野観光みらい会議2025開催レポート

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長野市

長野市を中心に「長野エリア観光戦略研究委員会」が発足

2025年7月29日、ホテルメトロポリタン長野において「長野観光みらい会議2025」が初開催され、地域の事業者など約170名が参加しました。2027年の善光寺御開帳を見据え、急増するインバウンド需要への対応と持続可能な観光戦略の構築を目指し、長野市、善光寺、観光分野の専門家など多彩な地域関係者が一堂に会する貴重な場となりました。

本会議は長野市を中心に発足した長野エリア観光戦略研究委員会の主催で、長野市を核とした広域観光圏の在り方について官民連携の新たな枠組みを探求する議論の場として企画されました。

会議は3部構成で展開され、第1部では「2027年の御開帳を契機に。長野市の観光のこれからを考える」をテーマに、長野市長の荻原健司氏、善光寺事務局次長の清水雄介氏、立教大学客員教授の永谷亜矢子氏が登壇しました。

第2部では「インバウンド戦略のポイントと求められる体験価値とは?」を議題として、長野市副市長の松山大貴氏、岐阜県観光誘客推進課長の加藤英彦氏、株式会社Earthboatの吉原ゴウ氏、株式会社Huuuuの徳谷柿次郎氏による実践的なパネルディスカッションが行われました。

▼「長野エリア観光戦略研究委員会」発足
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000132040.html


目次

第1部:データで見る観光立国日本と長野の現状

日本観光業界の驚異的成長

会議の冒頭、永谷氏は豊富な統計データを用いて国内観光業界の成長を報告しました。2023年に政府が設定した観光消費額5兆円の目標に対し、2024年には8兆円を突破したことが明らかになりました。永谷氏は「予想を大幅に上回る結果となっています」と述べ、参加者に深い印象を与えました。

訪日外国人観光客数は前年比1,200万人増の約3,700万人に到達。この背景について永谷氏は「円安効果、日本の安全性、四季の自然美、独特の食文化、優れた交通インフラが相乗効果を生み出している」と分析しています。

特筆すべき変化として、FIT(個人手配旅行)の劇的な台頭があります。現在、訪日客の8〜9割が個人旅行者となっており、従来の団体ツアーから体験価値を重視した旅のスタイルへ転換が進んでいます。


長野県の観光動向と特徴

長野県の訪問者の特徴として、オーストラリアと台湾からの観光客が多い一方で、他県では多い韓国からの観光客が相対的に少ないという独特の傾向が見られます。

また、県内の宿泊分布が極めて均等に分散していることも特徴的で、白馬、軽井沢、長野市、松本市といった主要観光地に満遍なく宿泊者が滞在し、周遊型観光が成立しています。この点について永谷氏は「県内の観光コンテンツの豊かさと多様性を示すものであり、他県には見られない貴重な強み」と評価しました。

一方で、FIT化の急速な進展に対する課題も浮き彫りになっています。現地での体験予約システムの不備や英語対応の不十分さなど、デジタル環境整備の遅れが指摘されており、これらの改善が急務となっています。

荻原市長が描く長野市の観光戦略

永谷氏の報告を受け、荻原市長は「北陸新幹線の延伸により観光客が素通りしてしまう懸念を抱いていましたが、これほど多くの方々が長野を目的地として選んでくださっていることを知り、大いに勇気づけられました」と率直な感想を述べました。さらに、市の競争優位性について、「神社・寺院・城郭という『文化財の3拍子』が見事に揃っていることに加え、都市機能と豊かな自然環境が絶妙に調和した稀有な環境を有しています」と説明しました。

一方で「観光客の増加が地域住民の日常生活に与える影響は決して軽視できません。地域の皆様との丁寧な対話を重ねながら、観光資源の活用方法を慎重に決定していく必要があります」と、行政責任者としての配慮ある姿勢を示しました。

善光寺の現状と課題

善光寺の清水氏が明かした現状は参加者を驚かせました。「日によっては、朝のお勤めに参加される方の8割から9割が海外からの方々」という状況は、訪日観光客の宗教・文化体験への深い関心を物語っています。

しかし、この急激な変化に対応する体制整備は追いついていません。「どのような背景の方がお越しになり、何を理解し、どのような感動を抱いてお帰りいただいているのか、正直把握しきれていない状況です」と率直な課題を語りました。

善光寺は現在、海外向けホームページを開設しているものの、SNSアカウント開設や自動翻訳機能は未導入です。39室ある宿坊については、大多数が旅行会社との提携関係を構築しておらず、電話のみでの受付となっているため、海外からの個人客には予約が困難な状況となっています。


第2部:事業者の実践から学ぶインバウンド戦略

Earthboatの革新的宿泊体験モデル

株式会社Earthboatの吉原氏は、信濃町で展開する画期的な宿泊事業について紹介しました。同社は「自然に飛び込むきっかけをつくる」というミッションの下、フランチャイズ型のサウナ付きトレーラーハウス型宿泊施設を全国展開しています。

従来の宿泊施設と比較して初期投資とランニングコストを大幅削減し、土地の基礎工事も不要で将来的な移設や撤去も容易という、極めて柔軟性の高いビジネスモデルを構築しています。2024年にはグッドデザイン賞を受賞し、2025年7月現在で全国8拠点を展開中です。

「従来の宿泊業界では室内での価値提供に重点を置きますが、私たちは『客室からいかに外の世界へと誘い出すか』を中心に据えた設計思想を貫いています」と説明し、差別化戦略の重要性を強調しました。Earthboatは現在、冬場の稼働率が90%を超え、白樺湖エリアにオープンした最新モデルでは直近1か月の稼働率が100%を達成しています。

OTA脱却の実験的取り組み

吉原氏は業界の常識に挑戦する取り組みについても言及しました。「OTA(宿泊予約サイト)には約15%の手数料負担があります。実験的に2か月間OTAを完全停止しましたが、予約数に変化はなく、むしろ直接予約が大幅に増加しました。」

この成功の背景には、Instagramの3.3万フォロワーを活用した戦略的デジタルマーケティングがあります。「大自然の中で水着になれるサウナ体験」という独特のコンテンツが影響力のある発信者を惹きつけ、各種メディアにも取り上げられる好循環を生み出しています。

岐阜県の体系的インバウンド戦略

岐阜県観光誘客推進課長の加藤氏は、県の戦略的インバウンド施策を紹介しました。岐阜県は欧米からの延べ宿泊者数で全国上位にランクインする一方で、観光消費単価の低さという課題を抱えていました。

この課題に対し、欧米の個人旅行者をターゲットとして設定し、地域文化と密接に結びついた体験型旅行商品の造成と販売体制の整備に取り組んでいます。

関市の刃物づくり、美濃和紙の製作、地歌舞伎など地域固有の文化体験を2017年頃から商品化しましたが、地方の特色あるコンテンツの検索性の低さという課題にも直面しました。

そこで県が着目したのは、欧米富裕層が信頼する「お抱え旅行会社」の存在です。日本の文化に精通したランドオペレーターとの戦略的連携により、BtoB型の効率的な流通構造を構築しました。

現在では年間数十本の体験商品を造成し、県内及び隣県の宿泊施設との連携体制も整備しています。「ハワイやバリ島のような充実した体験デスクを岐阜県にも実現したい」と語る加藤氏の言葉からは、現地での即時予約を可能にする体制づくりの重要性が示されています。

行政の役割と広域連携の重要性

長野市副市長の松山氏は、東京から着任した客観的視点から長野市の観光ポテンシャルを分析しました。「実際に住んでみて最も強く感じたことは『もったいない』という一言です。これほど豊富で多様な観光資源に恵まれているにも関わらず、それらを十分に活用しきれていません」

観光政策における行政の適切な役割について、「観光産業は本来、行政が直接介入すべき領域ではありません。行政の役割は、多様なプレイヤーが効果的に連携できる環境とプラットフォームを整備することです」と持論を展開しました。

「2027年の御開帳を契機として、従来の枠組みを大胆に変革し、長野市のみならず周辺地域全体にポジティブな波及効果をもたらす新たな仕組みを構築したい」と強い意欲を示しました。

インバウンド受け入れの課題と解決策

セッションでは、インバウンド急増に伴う現実的課題も議論されました。吉原氏は「レンタカー不足、特に大型輸送車両の不足は極めて深刻。海外観光客は荷物が多く、国際免許証を保有していない方も多いため、実質的にタクシーしか選択肢がない状況です」と交通面の問題を指摘しました。

また、観光需要の季節的偏りについても「冬場には飲食店が軒並み満席となり、地元住民も利用できない状況が頻発しています。地方部では冬の特定期間だけ需要が急増するため、多くの事業者が通年での安定した経営に苦心している」と問題提起しました。

松山副市長は「地域全体でのボラティリティ(収益の変動性)をいかに平準化し、持続可能な観光産業を構築するかが最重要課題です。広域連携を強化することで変動幅を最小化し、より安定した基盤を築きたい」と解決に向けた方向性を示しました。

通年観光の実現と富裕層獲得戦略

株式会社Huuuuの徳谷氏は、全国47都道府県での取材経験を基に長野県民の特性を分析しました。「長野県民は地域に対する愛情が人一倍強いのですが、その素晴らしい魅力を外部に発信することがあまり得意ではないように見受けられます。その奥ゆかしさや謙虚さこそが長野ならではの魅力でもあります」

富裕層マーケット獲得の可能性について、「軽井沢で展開されている1泊200万円、最低1週間からの予約制という超富裕層向け宿泊施設があります。そこで彼らが最も求めているのは、『おばあちゃんが作った漬物』や『昔ながらの稲作体験』など、長野県内どこにでもある”普通の暮らし”の体験です。適切な仕組みさえ構築できれば、通年で富裕層を継続的に呼び込める大きな可能性があります」と具体例を挙げて説明しました。

今後の展望と具体的アクション

2027年御開帳に向けた戦略的準備

永谷氏は会議の締めくくりとして、「6年ごとに御開帳という大きな節目があることで、地域が一丸となって新しいチャレンジに取り組める環境が整っています。このような恵まれた条件を持つ地域は全国を見渡しても他に類を見ません」と長野の特殊性を強調しました。

「残り2年という期間があれば、必要な体制を十分に整備することができます。デジタル対応の強化、予約システムの抜本的整備など、取り組むべき施策は既に明確になっています」と実現可能性について確信を示しました。

荻原市長も「オーストラリアからの観光客は今後も確実に増加する傾向にあります。もはやのんびりと構えている時間的余裕はありません」と述べ、官民一体となった取り組みの加速を強く呼びかけました。

市民レベルでのおもてなし向上

徳谷氏からは、市民レベルの実践的な提案もなされました。「権堂でスナックを経営していますが、道に迷って困っている外国人観光客をよく見かけます。皆さん一人ひとりが積極的に声をかけ、何にお困りなのかを気軽に聞いてみませんか。英語が話せなくても、Google翻訳があれば十分コミュニケーションは可能です」

「何人の観光客に声をかけたかをポイント制にするなど、ゲーム感覚で楽しみながら観光客とのコミュニケーションを促進する仕組みがあってもよいのではないでしょうか」という具体的アイデアも提示され、行政主導ではない市民一人ひとりが関与する、自発的な観光振興の新たな可能性が示されました。


総括:長野観光の新たなステージへ

長野観光みらい会議2025は、長野市が日本の地方観光の成功事例になるための意義深い会議となりました。永谷氏が提示したデータが示すように、長野は既に多くの外国人観光客から愛される国際的な観光目的地としての地位を確立しており、2027年の善光寺御開帳に向けて、さらなる飛躍への道筋を描いています。

この会議を通じて浮き彫りになったのは、長野市が有する豊富で多様な観光資源の存在と、それらを最大限に活用するための戦略と課題です。善光寺の宿坊という貴重な文化的資源の活用、デジタル対応の強化、二次交通網の整備など、取り組むべき課題は多岐にわたりますが、それぞれに対して具体的で実現可能な解決策も示されました。

特に重要な示唆は、Earthboatの事例が実証する「独創性の高い体験価値創出」、岐阜県の取り組みが示す「体系的で持続可能な受け入れ体制構築」、そして長野市が目指す「広域連携による安定した観光産業の実現」という3つの要素が有機的に組み合わさることで、真に競争力のある世界水準の観光地域づくりが実現可能になるということです。

今回の会議をキックオフとして、長野エリア観光戦略研究委員会を中心とした継続的で建設的な議論と、具体的な取り組みの着実な実行が、長野観光の未来につながります。長野市では、2027年の善光寺御開帳に向けて、長野が持続可能で豊かな国際観光地となることを目指します。(レポート執筆:ライター 根岸 達朗)

本シンポジウム・長野エリア観光戦略研究委員会に対するお問い合わせ

連絡先:長野市観光文化部観光振興課 塩川 駿 
TEL:026-224-8316
E-mail:kankou@city.nagano.lg.jp

出典:PR TIMES

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企業プレスリリース詳細へ (2025年8月18日 14時30分)

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