株式会社コマ
ミシュランの星を持つ柴田秀之氏が手がける新レストラン「maerge」のためにデザイン/製作をしたスポークチェアが誕生。

「あなたと共に生きる家具」をコンセプトに日本の伝統的な手道具を駆使し家具を製造・販売している職人集団KOMA (本社 : 武蔵村山市/代表 : 松岡茂樹)が、新製品を発表しました。

maerge chair
2025年6月に南青山にオープンしたレストラン「maerge」のためにデザインした椅子。
スタートから約1年半の歳月をかけて完成しました。



〈maerge chairの軌跡〉

2023年9月28日、柴田シェフがKOMAの工房を初めて訪れた日から、約1年半。
一脚の椅子をつくるために重ねられたのは、幾度にもおよぶ検証と対話、そして、細部にまで妥協のない設計だった。
柴田シェフのリクエストは、「料理が美味しく食べられる、最高のスポークチェアをつくってほしい」というもの。
本リリースでは、その言葉を出発点に、KOMA代表松岡と柴田シェフの間で交わされたやり取りと、試作を重ねていく中で何がどう変化していったのかを辿っていく。
No.1|始まりのプロトタイプ
最初の試作は、レストランの規模や椅子の脚数までを想定しながら製作がスタートした。
座り心地を優先するならクッションを入れるのが一般的だが、「スポークチェアの特徴は、空間における透過性。クッションを置くとスポークチェアの良さが消えてしまう。」と松岡は語る。
そのため、クッションを使わずに心地よく座れる構造を追求する方針となった。
実際にモックアップに座ってみると、図面ではわからなかった座った時の問題を感じることができた。
大きく感じたのは、2つ。
「肘を置いて座った時に感じる圧迫感」と「笠木が高いことによる窮屈感」だった。
No.2|徹底的に突き詰めた“座り心地
1作目で明らかになった課題を受けて、すぐに再製作に入る。
後脚上部の圧迫感は、わずかにアールを緩やかにすることで干渉を避けた。
さらに、窮屈感も笠木の高さも若干低くし、身体を伸ばした際の快適さが改善された。
だが、松岡の中には「まだジレンマがあった」という。
柴田シェフからは、「アームはテーブルの下に収めたい」という要望があった。
しかし、アームの高さを下げると、快適な座り心地とのバランスが崩れてしまう。
「アームは本来、座ったときにしっくりくる高さにあるべき。でも収納性を優先すると、そこを少し我慢しなきゃいけなくなる」と松岡は語る。
No.3|たった数センチの差
アームの高さに悩んだ末、松岡は2種類の椅子を柴田シェフに座り比べてもらうことにした。
「KOMAの代表作cocoda chairには、座り心地を重視したスタンダードタイプとテーブルの下に収まるロータイプがあって、20mmだけアームの高さが違う」と松岡は説明する。
数センチの違いにもかかわらず、座り比べた柴田シェフは「こんなに違うとは思わなかった」と驚いたという。
「世界中のレストランを回ってきたけれど、今まで“テーブル下に収まるアーム”しか座ってこなかった。これが普通だと思っていた」と柴田シェフは振り返る。
そこで松岡が導き出した答えは、“アームは理想の高さに変更し、アームの奥行き方向の長さを短くすることで収納性を確保する”という設計だった。
No.4|造形へのこだわり
椅子としての機能や快適性が整った段階で、次に求められたのは「美しさ」だった。
柴田シェフが目指す空間は、「世界一のレストラン」。
KOMAの強みである“造形力”が活きたのは、前脚のデザインだった。
「前脚を真っ直ぐにすると、どうしても硬い印象になる。だから少し曲線を入れて、座り心地は変えずに柔らかい表情と美しさを表現した」と松岡。
そうした細部の積み重ねが、佇まいの美しさを形づくっている。
こうして、何度も試作を繰り返し細部にわたる対話と調整を経て生まれた「Maerge chair」。
それは単なる一脚の椅子ではなく、料理と空間、そして人をつなぐための“体験の一部”としてデザインされた椅子に仕上がりました。
※KOMAshop青山支店では、2025年9月9日まで完成までの軌跡を辿ったイベントを開催中。
詳細はこちら
〈デザイナー/家具職人 松岡茂樹が語るmaerge chairについて〉

新しく南青山にオープンするレストラン maerge のためにデザインした椅子だ。
ミシュランの星を持つオーナーシェフの柴田さんが世界一のレストランをつくるために各分野の一流達を集めた壮大なプロジェクトで、彼の要望は最高のスポークチェアだ。
今までに様々なジャンルの椅子を多く作ってきたが、座り心地を突き詰めるとやはりcocoda chairのような背中を立体的な3次曲面で支える椅子になる。
スポークチェアのような線で支える椅子で背中のクッションを使わずに座り心地に特化するのは難しく納得したものを作れたことがない。
だから今の製品ラインナップにもそういった椅子はない。
しかしクッションを置くことでスポークの椅子の特徴でもある空間における透過性は失われ、椅子そのもののサイズもその分大きくなってしまう。
これが20脚並ぶとなると店内全体の雰囲気に及ぼす影響は少なくない。
だからあえてクッションは使わずに木のスポークだけで最高の座り心地を探すことにして、まずは笠木からスポークの形状の設計をはじめた。
笠木を配置する高さとそれに合わせたカーブ、スポークの造形はさまざまな組み合わせを何度も試作しながら、腰回りの縦のカーブに合わせて3次元に削り出したスポークを背中全体の横の丸みにフィットするように配置した。
一言で背中と言っても肩周りを示す上部の他に中部、腰周りの下部など部位によってフィットするカーブが異なる。
ブーメランのような形状のスポークを下に向かって狭くなるように配置することで、ちょうど腰の反りを支える中部のカーブが上部の笠木のそれよりも小さくなるような工夫をして、スポークの構成でもそれぞれの部位に合わせた設計ができた。
次にアームの設計に取りかかる。
アームの高さはテーブルの下に収納できるように設計するのが一般的だが、実は座り心地に特化した場合それでは少し低く、ちょうどテーブルにぶつかる高さがベストなのだ。
余談だがKOMAの代表作の一つでもあるcocoda chairもレギュラーサイズは座り心地だけに特化するためテーブルの下にアームは収納できないサイズになっている。(lowタイプ、miniタイプと収納できるサイズも展開している)
柴田さんに座り比べてもらうと、たった数センチの差でこんなにも変わるのかと驚いていた。
世界中のレストランに足を運んできた彼だが、テーブルの下に収納できる高さのアームにしか座ったことがなく、これが当たり前だと思っていたが、こうして座り比べてみるとどこにも無い最高の座り心地を目指すと同時に収納の要素も取り入れるということで方向性が決定した。
そうして何度も試作を繰り返す中で、座り心地と収納、強度、空間の雰囲気やコンセプトに合わせるなど、必要とされる要素を叶えていった結果この有機的なフォルムがうまれた。
そうやってようやく完成した椅子に座っていると、何だか肘を置いた時の後脚の上部が邪魔に感じはじめてしまった。
一度気になりだすともうどうしようもない。
また一から設計を見直し原寸図を引き直す。
笠木のカーブを浅くすればそれは解消されるのだが、背中の当たりは悪くなる。
だから背中が当たる笠木の中心部と外側でカーブの大きさを変え後脚を後退させる工夫をするなど数ミリの変更を繰り返してようやく今の自分にとってのベストが完成した。
労力も時間も予算も関係なく、自分のベストが作れるまでやめないっていうのが大切だと思っている。
なぜならベターではなくベストは、次に自分自身が越えるべき壁となってくれるからだ。
そしてこの壁を越えたいと思えるから、ずっと情熱を忘れずにいられるのだ。
maergeのHPはこちら



松岡 茂樹
KOMA代表 / 親方 / 家具職人 / デザイナー
家具職人としての技術と姿勢が評価され、厚生労働省から「現代の名工」の称号を2020年度の最年少で拝受。KOMAの全てのクリエイションを担う。世界三大デザイン賞制覇をはじめ世界8カ国52個のデザイン賞受賞。職人を束ねる親方として技術の継承に力を注ぐ他、「会社はそこで働く人でできている」をモットーに、『仲間』と共に進んでいくという運営方針をとっている。
その他主な受賞歴
・DNA Paris Design Awards2024(フランス) グランプリ受賞
・International Design Excellence Awards 2023 (アメリカ)受賞
他、世界8ヶ国52の賞を受賞
その他受賞歴はこちら

KOMA
「あなたと共に生きる家具」

KOMAは2003年に松岡茂樹が始めた家具工房です。
「一点もの作品の美しさを満たした製品づくり」をコンセプトに東京郊外の20人程度の小さな工房で、作り手として最高だと思える家具を手仕事にこだわってつくり杉並区荻窪と港区青山の直営店で販売しています。
木が持つ優しくなめらかな触れ心地を引き出すように、宝物みたいに大切にしている刃物たちを使って、一削り一削りじっくり時間をかけて仕上げています。 道具を握る指先も、そしてその道具が出す音や木屑のひとかけらまで美しく。 そんなふうにして、使う人と永く寄り添える家具を一つひとつ丁寧につくっています。
世界各国の権威あるデザインアワードを多数受賞し、日本の手仕事を世界に発信しています。
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KOMAshop 杉並本店
約100坪の広々とした店内で、全商品をゆっくりとご覧いただけます。
※展示品が売れた場合など、全商品がない事もございます。
住所 東京都杉並区上荻1-24-10 1F
営業時間 10:00 ~ 17:00
定休日 水曜・木曜

KOMAshop 青山支店
25坪4フロアの店内は、ミニマムなサイズのテーブルなどを多く展示しています。
厳選したアイテムの他限定品などの展示もございます。アクセスのしやすさも魅力です。
住所 東京都港区北青山2-11-16
営業時間 11:00~18:00
定休日 なし(臨時休業あり)