国際連合食糧農業機関(FAO) 駐日連絡事務所
FAOは、農業生物多様性、伝統知識、文化遺産を象徴する世界農業遺産(GIAHS)として、新たに日本で2地域、イタリアで1地域を認定

2025/08/27
日本において、かつての砂鉄鉱山を再生した段々畑の農林畜産複合システム、そして石垣に囲まれた柑橘果樹園の景観、さらにイタリア沿岸部の急斜面に広がる象徴的な地中海の段々畑が、新たに世界農業遺産(Globally Important Agricultural Heritage Systems, GIAHS)に登録されました。これにより、国際連合食糧農業機関(FAO)創設80周年の節目となる本年、世界農業遺産の認定地域数は100を超えました。
これらの地域は、8月26日に開催された世界農業遺産(GIAHS)科学助言グループ(Scientific Advisory Group)の会合において、FAOの旗艦プログラムの一環として正式に認定されました。この度の3地域の登録により、世界農業遺産のネットワークは29か国、計102地域となり、日本では計17地域、イタリアは3地域目の認定となります。
これらのダイナミックで強靭なシステムは、豊かな農業生物多様性、伝統的な知識、貴重な文化、そして景観を体現しており、農民、遊牧民、漁業者、そして林業従事者によって持続可能な形で管理され、地域の生計と食料安全保障を支えています。
FAO気候変動・生物多様性・環境部長のカベー・ザヘディ氏は、「FAOは、これらの素晴らしい新たな地域を世界農業遺産に迎えることができ、大変光栄に思います。それぞれの認定地は、農村と農業コミュニティの創意工夫と強靭性の証であり、何世代にもわたり大切に維持され、適応してきた持続可能な農業慣行を物語っています」と述べています。
アマルフィのレモン園と段々畑農業システム(イタリア)
イタリアのアマルフィ海岸の急峻な段々畑には、何世紀にもわたって農業コミュニティが築き上げた、海を見下ろすレモン畑、オリーブ畑、ブドウ畑といった壮大な景観が広がっています。象徴的な「スフサート・アマルフィターノ」レモンは、栗の木で作られた棚(ペルゴラ)の下で手作業によって栽培されます。また、収穫は、ぺルゴラの上をバランスを取りながら歩き収穫する姿から「フライング・ファーマー」と呼ばれる人々によって、摘み取られます。
乾式石積みで築かれた段々畑は、浸食を防ぎ、土地を安定させ、水と温度の調節にも役立ちます。この地域では、1ヘクタールあたり最大800本のレモンの木が植えられており、低投入・無農薬の農法で最大35トンの収穫量を上げています。また、希少な地中海性植物を含む970種以上の植物が生息するなど、生物多様性にも富んでいます。
このシステムにおいて、農作業と伝統の担い手として女性が重要な役割を果たしています。この段々畑はユネスコの世界遺産にも登録されており、持続可能な地中海型山地農業を象徴する力強い模範となっています。
有田・下津地域の石積み階段園みかんシステム(日本)
和歌山県有田・下津地方の山間部では、400年以上にわたり、世代を超えて農家が温州みかんを栽培してきました。この伝統的なシステムは、急峻な斜面と湿潤な亜熱帯気候に適応した、石積み階段園に基づいています。段々畑は土壌と水の重要な機能を維持し、地域の微気候に適応した30品種以上のみかん生産を支えています。
長年培われた手法を用いた小規模家族農業に根ざしたこのシステムは、伝統的な知識や生物多様性を保全し、気候変動への強靭性を守り続けています。伝統的な技術と石積みは、排水を調整し、熱を保持し、冷害を防ぐのに役立ちます。また、養蜂、林業、野菜との混作は、食料安全保障と経済的強靭性に寄与しています。
みかんの品種にまつわるお祭り、食文化、そして物語は、有田に根付く文化的慣習と共有された価値観を反映しています。
たたら製鉄を再適用した奥出雲地域の持続可能な水管理及び農林畜産システム(日本)
日本の奥出雲地域では、かつての砂鉄採掘により荒廃した土壌が、何世紀にもわたって地域住民が管理してきた灌漑用水路によって潤され、棚田へと生まれ変わりました。そこでは、農家が稲作、林業、放牧、ソバ栽培を組み合わせ、地域資源を循環利用する独自の農業システムを築き上げてきました。
このシステムの中核を担うのは、黒毛和牛です。黒毛和牛は、高品質な牛肉として収入源になるとともに、その堆肥が水田土壌を豊かにします。高地かつ傾斜地での栽培に適したソバは、米や野菜と並ぶ重要な文化的作物となっています。
人口減少などの課題にも関わらず、このシステムは、強い文化的結びつき、景観の管理、そして地域に根ざした創意工夫によって、強靭性を保っています。
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