浜松ホトニクス株式会社
レーザフュージョン発電に向けた1キロジュールレーザの開発を加速
当社は、半導体レーザ(LD)励起の固体レーザでは世界最高出力となる、パルスエネルギー200ジュール(J)のレーザを10ヘルツ(Hz)で照射できる平均2kWのレーザ出力を達成しました。
本実験は、光学的課題や熱負荷が発生する10Hzの繰り返し運転において、レーザ装置内で増幅できるレーザ光のエネルギー密度の限界を確認することを重要な目的の一つとして行いました。今回、当社が保有する世界最高クラスの大出力レーザ装置に対し、レーザ媒質を冷却する性能を高める機構部の改良と、レーザ光のビーム品質を高める工夫を行うことで、従来の2倍以上の光エネルギー密度でのレーザ出力実験に成功しました。これにより、世界最高のレーザ出力を達成するとともに、本レーザ装置で増幅されたレーザ光が内部の光学素子に損傷を与えるレーザ出力の限界値を確認しました。また、レーザフュージョン発電の実現に向けたマイルストーンの1つである、1kJ×10Hzレーザの概念設計と主要な技術課題を抽出することができました。
本成果は、2025年9月14日(日)~18日(木)まで仏国のトゥール市で開催される「第13回レーザ核融合科学と応用に関する国際会議(13th International Conference on Inertial Fusion Sciences and Applications)」にて口頭発表を行います。

当社は2021年、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と共同で、250Jのレーザを0.2Hzの低い繰り返し数で出力するレーザ装置を開発しました。10Hzの繰り返し出力を達成するには、50倍の発熱量によるレーザ媒質の温度上昇を原因とするレーザ特性の劣化が問題となっていました。2023年には、LDの励起パワーを調整しレーザ媒質の温度上昇を制御することで、100J× 10Hzのレーザ出力を確認しました。
今回、レーザの高出力化のためにLDの励起パワーを1.5倍まで増強しました。その際に発生する発熱の影響を、独自の冷却構造を改良しヘリウムガスの流量を増やすことで軽減するとともに、レーザ装置全体の動作条件の最適化を行い、レーザ媒質における特性の劣化を抑えました。この結果、パルスエネルギー200Jかつ繰り返し10Hzと平均出力2kWのレーザ出力に成功しました。
今回、高いパルスエネルギーを繰り返し出力するレーザの高出力化を実証したことで、レーザ装置のさらなる大出力化に向けた設計が可能になりました。また、本レーザ装置によるレーザを、中性子を安全に遮蔽できる当社のレーザ照射施設へ供給し、レーザフュージョン研究にも応用することができます。今回の実験で一部の光学素子が損傷した本大出力レーザ装置は、1kJ級レーザの開発のための基礎データ取得やレーザフュージョン実験施設における研究のため年内に再稼働します。
今後、レーザフュージョンの実用化に向けて、1kJ×10Hzのレーザ出力を実現するレーザ技術の研究開発を加速します。また、本実験で明らかになった課題の解決と、1kJ級レーザの開発を目指す国内外の研究機関との連携体制の構築および国家プロジェクトの立ち上げを目指します。
本実験で用いた大出力レーザ装置は、NEDOの委託事業として当社が2016年から2021年にかけて開発し事業終了後に取得した装置であり、東京大学が管轄するレーザ加工プラットフォーム「TACMIコンソーシアム」の枠組みで利用することができます。本成果は、レーザフュージョンに限らず、レーザ加工や宇宙デブリ除去、半導体露光用光源などの経済安全保障の観点からも、国家的重要技術であると考えています。

<研究の背景>
レーザフュージョンは、重水素と三重水素を入れた燃料カプセルに大出力のレーザを照射することで原子核同士が融合する反応です。核融合反応によって発生した莫大なエネルギーを用いた発電実証は、カーボンニュートラルな社会に向けた次世代エネルギーとして世界中で期待されています。米国ローレンス・リバモア国立研究所にある国立点火施設(NIF)では、2メガジュール級の大出力レーザを用い、2022年12月に世界で初めてレーザフュージョンによる「点火(自己持続的な核融合反応)」が実証されました。NIFにおけるレーザ照射は数時間に1回程度に限られますが、レーザフュージョンの実用化にはレーザの繰り返し出力が必要になります。
当社では、LDを励起源とした高効率かつ高繰り返しでレーザ出力が可能なレーザ装置として1kJ級レーザの実現に向けた基礎研究プロジェクトに取り組んできました。




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