ダイソン株式会社
浮き上がるパネルによる全方向移動で、災害や起伏地の探索に対応する革新的な球体ロボットのアイデア

ジェームズ ダイソン財団は、国際学生デザイン・エンジニアリングアワードであるJames Dyson Award(ジェームズ ダイソン アワード、以下JDA)の2025年度国内最優秀賞1作品と国内準優秀賞2作品を発表しました。
【JDA2025 国内最優秀賞】
●「SPHEBOT」 <制作者: 早稲田大学 天野 創太氏>
災害や起伏地の探索に対応する、全方位移動可能な球体ロボット
【JDA2025 国内準優秀賞】
●「ERF Magnetic Tactile Sensors for Soft Robotic Hands」 <制作者: 早稲田大学 Prasetya Hutomo Winnyarto SULAKSONO氏>
柔らかさを保ちながら触覚と制振機能を両立させた、ソフトロボットハンド用ERF磁気触覚センサー
●「FAYRA」 <製作者: 京都先端科学大学 Rene Manuel Suarez Flores氏>
車椅子利用者の自立と安全な行動を支援する折りたたみ式ソフトロボットアーム
2005年の初開催以来、一貫して「問題解決のアイデア」をテーマとしてきた本アワードに、今年は世界28か国から2,100件を超える応募が寄せられました。国内審査の結果、JDA2025の国内最優秀賞には、早稲田大学の天野創太氏による、災害や起伏地の探索に対応する全方位移動可能な球体ロボット「SPHEBOT」のアイデアが選ばれました。
「SPHEBOT」は、脚を使って移動するロボットと、車輪を使って移動するロボットの両方の性能を兼ね備えた、新しい移動形態を提案しています。球体構造により、外部からの衝撃や危険から内部機器を保護できる設計となっており、災害現場や起伏の激しい土地など、過酷な環境での活躍が期待されています。
災害現場や探査などの環境に対応できるロボットが求められる中、「SPHEBOT」は徹底した軽量化と内部機器の安全性確保、そして全方向に安定して動き出せる仕組みの実現を目指し、約1年半にわたり開発が進められてきました。
今回の受賞にあたり、天野氏は「これまでの試行錯誤と改良の積み重ねが評価され、大変光栄に思います。自分の研究やものづくりの姿勢が社会的に認められたことは大きな励みとなり、さらなる挑戦への意欲を高めてくれました。」とコメントしています。また、今後の展望については、「さらに開発と検証を重ね、最終的には、様々な環境条件で動作可能な基礎技術として確立し、将来の応用開発に繋げることを目指します。」と述べています。なお、本受賞作品には賞金5,000ポンド(約80万円*)が贈られます。
<JDA2025 国内最優秀賞 : 「SPHEBOT」>
制作者 : 早稲田大学 天野 創太氏
https://www.jamesdysonaward.org/ja-JP/2025/project/sphebot-a-new-form-of-robotic-locomotion




概要 |
脚によって本体を持ち上げる動作と車輪のように転がる動作の両方を実現できる、新しいロボットの移動形態を提案するものです。球体の形状を持つことから、内部機器の外部からの衝撃や影響を減らすことができ、厳しい環境での使用が期待されます。 |
開発の背景・動機 |
宇宙探査や災害現場などの過酷な環境に対応できるロボットは以前から強く求められてきました。表面を伸縮させることができるロボットについて考える中で、大きなねじ構造を回転させることで表面をせり上げるという今回の手法にたどり着きました。 |
開発の課題と改善策 |
開発初期の課題は、球体の外殻の機構と内部の駆動機構の両方を成り立たせる構造を見つけることでした。外殻は滑らかに回転できる形状である一方、内部機構は大きなねじ構造を含むため、限られたスペースで強度と可動域を両立させる必要がありました。この問題に対して、複数の試作モデルを通じて部品配置や寸法の組み合わせを検証し、構造と機能のバランスを取る方向性を見いだしました。 |
JDA国内審査員 武井 祥平氏コメント
「球体状のボディ表面を物理的に押し出すことで自由な方向に転がるという、ありそうでなかったロボットの仕組み。試作と評価を繰り返してアップデートされているそのプロトタイプからは、ものづくりを心から楽しんでいる感覚が伝わってくる。思い描いたイメージを具現化するエンジニアリングの力も素晴らしいが、何より見る人をワクワクさせてくれる魅力が感じられる。」
<JDA2025 国内準優秀賞 : 「ERF Magnetic Tactile Sensors for Soft Robotic Hands」>
制作者 : 早稲田大学 Prasetya Hutomo Winnyarto SULAKSONO氏



概要 |
磁石の反発力を応用した、ソフトロボットのための新しい触覚センサーです。従来のシリコン製センサーは耐久性が低いという課題がありましたが、このセンサーは壊れにくく柔軟な設計で、その限界を乗り越えました。ロボットの指に組み込むことで、優れた耐久性と柔軟性を両立させることを可能にしました。 |
開発の背景・動機 |
私が発明をしようと考えたのは、従来のソフトロボット用触覚センサーが抱える「壊れやすい」「繰り返し使うと性能が落ちる」「柔らかい素材への組み込みが難しい」といった課題を解決したかったからです。そこで、柔らかさを保ちつつ、減衰力と強度を兼ね備える磁気式のデザインを考案しました。これにより、長期的に使用できる、より信頼性の高い触覚センサーシステムが実現できたのです。 |
JDA国内審査員 川上 典李子氏コメント:
「ソフトロボットハンドの柔軟性とマテリアルの耐久性の研究がなされ、磁気による反発を生かした触覚感知による柔軟性と、摩耗軽減によって可能とされる耐久性に富んだロボットハンドの提案がなされている。実験結果のデータも説得力に富むもので、真摯な研究過程と解決方法へのアプローチに関しても審査時の評価が集まった。ソフトロボットハンドの新たな可能性を示すプロジェクトであるだけに、開発の今後に注目していきたい。」
<JDA2025 国内準優秀賞 : 「FAYRA」>
制作者 :京都先端科学大学 Rene Manuel Suarez Flores氏
https://www.jamesdysonaward.org/ja-JP/2025/project/fayra-a-softer-reach




概要 |
FAYRAは、すべて柔らかい素材でできた、人に寄り添うソフトロボットアームです。その最大の特長は、万が一、人や物にぶつかっても怪我をさせる心配がないことです。車椅子利用者のためのアームとして、安心して使用できます。折り紙からヒントを得たこのアームは、自動でコンパクトに折りたためるため、狭い場所や人混みでも邪魔にならずに移動できます。物を取ったり、エレベーターのボタンを押したり、日々の様々な動作をサポートします。グリッパーは交換可能で多様な用途に対応し、コントローラーも任意の位置に取り付け可能です。FAYRAの目的は、単なる機能を超え、車椅子利用者の自立を取り戻すことです。常に誰かの助けを借りることなく作業を可能にし、より積極的に社会に参加する自信を与えます。将来的には、この技術が支援機器を身近で手頃なものにし、誰もが暮らしやすいインクルーシブな社会の実現に貢献したいと考えています。 |
開発の背景・動機 |
修士課程でソフト素材の研究をしていた私は、柔らかい素材が、人と密接に関わる技術に理想的だと気づきました。安全で柔軟、そして安心して使用できるからです。日本には、日常の移動手段として車椅子を使う人が200万人以上います。私は、自分が開発していた技術をこの現実的なニーズに応用し、一人ひとりに寄り添うデバイスを作りたいと考えました。FAYRAは、手の届かなかった場所に届き、日々の作業をこなせるようにすることで、利用者の自立と自信を取り戻す手助けを目指しています。革新的な技術と、人々の生活を本当に豊かにするという想いが、FAYRAの開発を今も動かす原動力となっています。 |
JDA 国内審査員 緒方 壽人氏コメント:
「腕の動作に困難のある車椅子利用者のための、折り畳め、低圧で動き、可動範囲も広く、実用性が高いソフトロボットアームです。実際の施設でのユーザーテストで、当事者のニーズやフィードバックを得ながら開発されている点も素晴らしいです。」
<今後の審査の流れ>
上記3作品を含む各国作品群は国際最終審査に進みます。世界28か国より国内優秀賞受賞作品が集まり、その中からダイソン創業者 ジェームズ ダイソンの選考により、国際TOP20作品が決定します。
選考結果は、国際TOP20作品を10月15日に、国際最優秀賞の結果を11月5日に発表予定です。国際最優秀賞受賞者とサステナビリティ賞受賞者には、賞金30,000ポンド(約470万円*)が贈られます。
*賞金参考金額: 1ポンド=およそ159円
<JDA2025 国内審査員>

緒方 壽人氏 (デザインエンジニア / Takram ディレクター)
東大工学部からIAMAS、LEADING EDGE DESIGNを経てTakramに参加。月面探査車の意匠コンセプトから、メーカーの製品開発、ショップや展覧会のディレクションまで、デザイン、エンジニアリング、アート、サイエンスを行き来し領域横断的な活動を行う。近著に『コンヴィヴィアル・テクノロジー』。

川上 典李子氏 (デザインジャーナリスト)
デザイン誌「AXIS」編集部を経て1994年に独立。企業やデザイナーの取材、執筆を行うほか、2007年より21_21 DESIGN SIGHT アソシエイトディレクターとしても活動。ほかにも「London Design Biennale 2016」日本公式展示キュレトリアル・アドバイザーを始め、国内外でのデザイン展の企画にも関わっている。グッドデザイン賞審査委員。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科客員教授。

武井 祥平氏 (エンジニア / nomena創業者)
2012年に東京大学大学院情報学環・学際情報学府修士課程を修了し、同年nomenaを設立。工学的な視座から前例のない表現の可能性を追求する活動を展開。東京2020聖火台主任機構設計者をはじめ、セイコーやJAXAとの共同制作・研究など、アーティストとの共同制作やテクニカルディレクションも手掛ける。主な受賞歴に、2024年毎日デザイン賞(2025)、文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞(2022)、東京大学総長賞(2012)など。
<ジェームズ ダイソン財団とジェームズ ダイソン アワードについて>
◆ジェームズ ダイソン財団 (James Dyson Foundation)
2002年に英国で設立されたジェームズ ダイソン財団は、現在では英国以外に、米国や日本、シンガポール、フィリピン、マレーシアといった世界中の国々で、デザイン、テクノロジー、エンジニアリング教育事業をサポートしています。ジェームズ ダイソンとジェームズ ダイソン財団はこれまでに慈善目的で1億4,000万ポンドを超える寄付を行ってきました。これには、インペリアル・カレッジ・ロンドンにダイソン スクール オブ デザイン エンジニアリングを設立するため行った1,200万ポンドの寄付や、ケンブリッジ大学にダイソン センター フォー エンジニアリング デザインおよびジェームズ ダイソン ビルの設立に向けた800万ポンドの寄付が含まれます。
◆ジェームズ ダイソン アワード (James Dyson Award)
ジェームズ ダイソン アワード( https://www.jamesdysonaward.org/ja-JP/ )は、エンジニアが世界の課題を解決する力を持っていることを証明するために設立されました。ジェームズ ダイソン財団によって運営され、これまでに400以上の発明に賞金や国際的なメディア露出を提供しています。2002年に設立された同財団は、次世代のエンジニアをインスパイアすることを使命とする国際教育慈善団体です。また、医療研究にも投資しており、これまでに1億4,500万ポンド以上を慈善事業に寄付しています。
最新情報はJDAのInstagram( https://www.instagram.com/jamesdysonaward/?hl=en ※英語のみ )や、Dyson Newsroom( https://www.dyson.co.jp/discover/news )でも随時ご案内します。